翻訳|lettuce
キク科(APG分類:キク科)の一、二年草。和名をチシャ(萵苣)という。ヨーロッパで古くから葉菜として利用され、いろいろな系統、品種群に分化している。葉は楕円(だえん)形ないし長形で、生育中期までは茎はほとんど伸びず、葉は重なり合い結球するものと、結球しないものとがある。茎葉は傷つけると白い乳液が出る。夏にとう立ちして高さ1メートル余になり、上部は枝分れし、黄色の径2~3センチメートルのキク状の頭花をつける。早朝開花し昼前には閉じる。種子は痩果(そうか)で長楕円形で扁平(へんぺい)、長さ3~4.5ミリメートル、白のほかに黄、黒色のものがある。種子は好光性で暗黒下では発芽しにくい特性がある。
よく栽培される系統には、結球・半結球性のタマヂシャ(玉萵苣)Lactuca sativa L. var. capitata L.と、非結球性のカキヂシャ(掻萵苣、別名アスパラガスレタスasparagus lettuce)var. asparagina Baileyがある。
タマヂシャはヘッドレタスhead lettuceまたはキャベツレタスcabbage lettuceともよばれる。葉は10枚以上になると結球し、球は径10~20センチメートルになる。結球性レタスの起源年代は明らかでないが、ヨーロッパで16世紀から普及した。日本へは明治時代に導入された。葉は鮮緑色のほか褐紫色のものなど品種が多い。このなかで葉が密に結球しないで、緩く半結球性となり、葉質がきわめて柔らかく、口中で溶けるようなという意味でバターヘッドとよばれる。日本ではこれを一般にサラダナとよんでいる。
カキヂシャは葉は長形で多数重なり、葉が増えるにつれてすこしずつ茎が伸びる。茎は太く径3センチメートルで柔らかい。葉を順次掻(か)き取って食べ、また伸びて30~50センチメートルになった茎をアスパラガスのように食べるのでアスパラガスレタスの名がある。他にクキチシャ(茎萵苣)ともいう。葉を掻いて食べるレタスはすでに紀元前6世紀にペルシアで利用され、以降、ギリシア、ローマに普及しヨーロッパに広まった。5世紀までには中国に伝わり、日本へは10世紀までには入っていた。これが在来のチシャである。
このほかに、よく利用されるものに、コスレタスcos lettusと、カールレタスcurled lettuce(和名チリメンヂシャ)var. crispa L.がある。コスレタスは葉は長楕円形、長さ20~30センチメートル、ほぼ直立性で、ハクサイに似た半結球状になり、内部の葉は軟白されている。温暖な気候のイタリアで中世から栽培され、イギリス、フランスに多いが、日本ではほとんど栽培されていない。カールレタスは葉数は少なく、葉は縮れている。結球性と半結球性のもの、色も緑のほかに紅紫色などがある。
日本での生産は、夏秋レタスが9260ヘクタール、年産27万8500トン(2018)、主産地は長野(68%)、群馬(20%)。冬レタスが8030ヘクタール、年産18万6300トン(2018)、主産地は茨城(17%)、長崎(13%)、静岡(12%)ついで兵庫、香川など。春レタスが4390ヘクタール、年産12万0700トン(2018)、主産地は茨城(34%)、長野(17%)、長崎(7%)ついで兵庫などとなっており、都市近郊地、夏は高冷地、冬は温暖地などで周年生産供給されている。播種(はしゅ)は3~10月、普通は苗床に播種し、子苗を本畑に定植する。秋播(ま)きがもっとも結球性がよい。冬季はビニルハウス、トンネル内で栽培する。
[星川清親 2022年5月20日]
レタスは生食野菜の代表とされ、ビタミンAを多く含む。サラダには不可欠で、とくにサラダナはもっとも適した品質を備えている。カールレタスは葉質が縮みをもつとともに歯切れがよいのが好まれる。またスープなどに入れたり、サンドイッチに挟んだりする。アスパラガスレタスおよびコスレタスの葉はレタス本来の淡い苦味をもち、生食には向かないので、一度ゆでて料理する。カキヂシャも和(あ)え物、ごまよごしなどにする。カキヂシャの茎はおもに中華料理に用いられ、ゆでてから種々に味つけする。
[星川清親 2022年5月20日]
『近藤雄次編著『レタス――作型とつくり方』(1980・農山漁村文化協会)』▽『農耕と園芸編集部編『レタス 生理と栽培技術――野菜栽培の新技術1』(1986・誠文堂新光社)』
チシャ,チサともいい,葉または茎を生食するキク科の一・二年草。一般に呼ばれている結球性のものだけでなく,日本で古くから栽培されていたものなども含めた総称名で,その利用部分や形態から立レタス,茎レタス,葉レタス,玉レタスに分類される。このうち日本で最近多く栽培されているのは玉レタスである。また近年,栽培出荷されるようになったサニーレタスは葉レタスの仲間である。以前から農家の庭などで栽培されていた,葉をかきとって食用にしたカキレタスは立レタスに,根生葉を利用した小型のレタスは葉レタスに所属する。玉レタスはさらにかたく結球し頭部が完全に抱合するクリスプヘッド型,結球が弱く頭部が完全に抱合しないバターヘッド型に分けられ,前者を一般には玉チシャ,玉レタス,結球レタス,あるいは単にレタスと呼び,広い意味のレタスの主体をなしている。後者はサラダナと呼ばれている。
レタスの原種は地中海東部沿岸から小アジアにかけて分布するL.serriola L.と考えられている。それはレタスに近縁な数種の野生種のうち,この種だけ自由にレタスと交配し種子をつくるからである。レタスはすでに前4500年ごろエジプトで利用されていたことが壁画から知られている。さらにギリシアやイタリアに導入され重要な野菜となった。しかし,これらはいずれも非結球性のレタスであった。ヨーロッパで結球性のレタスが知られるのは16世紀の中ごろになってからである。中国へは西暦600~900年ごろに入り,肥大した茎を食用にする変わった品種群である茎レタスが育成されている。日本には中国を通して導入され,広く栽培されていた。現在日本では〈レタス〉というと玉レタスをさすほど普通な野菜になった結球性のレタスは,明治になって西洋野菜として導入栽培が始まった。また完全に結球するクリスプヘッド型が栽培されるようになったのは第2次大戦後であり,まったく新しい野菜である。今日利用されている結球レタスは16世紀以降ヨーロッパとアメリカで品種改良されたもので,かつての形態からは想像もつかないほど変化してしまっている。
玉レタスは在来の品種群と異なり,冷涼な気候を好み,種子の発芽は15~20℃が適温であるが,25℃を過ぎると発芽率は著しく落ちる。また高温になると種子は休眠に入る。結球は播種(はしゆ)後40~50日ごろから始まり,結球葉数は約60枚が標準である。葉は円形で光沢があり,葉縁部に欠刻やしわが多い。外葉は緑色であるが結球部分の葉は淡緑色となる。花芽分化後の抽だい(とうだち)は高温長日下で促進される。開花時の草丈は90~120cmとなる。花は頭状花序で,十数個の舌状花をつけ,舌状弁は黄色である。品種改良と栽培地や栽培法によって出荷は年間を通じて行われている。主として都市近郊の平たん地で行われる春まき栽培および秋まき栽培,標高1000m前後の高冷地(長野県,群馬県,岩手県など)を利用する夏まき栽培,温暖地(静岡県,千葉県,和歌山県など)で行われる冬まき栽培などがあり,いずれの作型もビニルなどの保温資材を利用することによって,播種期や収穫期の幅を広げている。食生活の洋風化,消費水準の上昇はレタスの消費を著しく伸ばしている。レタスはサラダとして生食に利用され,食塩かマヨネーズをつけて簡単に食べられ便利である。葉を切るときは金物のにおいが移らないように手でちぎるか木製のナイフを利用するのがよい。
執筆者:高橋 文次郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報
…葉を生食するキク科の一,二年草。日本で昔から栽培されているチシャや最近洋菜としてサラダなどに多く用いられる結球性の玉レタスは,植物学的には同一種で,地中海東部地域で栽培化された。日本では,この玉レタスのなかで結球性が弱く頭部が完全に包合しない品種群をとくにサラダナと呼び,結球性の強いふつうの玉レタスとは区別している。日本への導入は明治・大正の時代からであるが,ふつうの玉レタスほどには消費は伸びていない。…
※「レタス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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