野菜園芸(読み)やさいえんげい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「野菜園芸」の意味・わかりやすい解説

野菜園芸
やさいえんげい

園芸の一部門で、野菜の栽培生産をいう。

[星川清親]

分類

自給園芸、市場園芸、中間園芸、輸送園芸、加工園芸に分類される。

[星川清親]

自給園芸

農家の自給用栽培であるが、市場価が高い場合は、生産物の一部は市場に出荷され、価格調節の作用もする。また個人行商などによって市販もされる。最近は農家の自給栽培量は減少しており、市場価格への影響力は従前よりは著しく小さくなった。

[星川清親]

市場園芸

青果市場へ出荷することを目的に生産するもので、出荷の地理的有利性から都市近郊で行われるので、近郊園芸ともよばれる。圃場(ほじょう)は個々には比較的小規模で、そこに1年二~四作の連作、または二~四毛作の短期輪作することが多い。圃場利用率を高め、また多種目の生産により、常時出荷することが有利なためである。また市場に近い利を生かして、鮮度の重要な葉物(はもの)野菜などが主体とされる。とくに芽物(めもの)、軟化物(もの)などの生産は、特殊な技術を要するので、伝統的な特産地が形成されている。しかし都市近郊の農家が兼業化したことと、後述の中間・輸送園芸の発達したこととによって、市場園芸は衰退し、労力のかからない粗放に栽培できる野菜が栽培されるようになり、むしろ自給園芸化する傾向が強まっている。

[星川清親]

中間園芸

交通が発達するにつれて、従前は米麦などを生産していた、近郊よりさらに遠隔地帯、すなわち中間地帯で野菜園芸が盛んになった。これを中間園芸という。たとえば東京市場を対象とした茨城、埼玉、千葉諸県での野菜園芸がこれにあたる。生産種目の数は近郊園芸よりは少ないが、比較的まとまった量の生産を行い、ほぼ日常的に市場へ出荷している。

[星川清親]

輸送園芸

長距離輸送によって市場へ野菜を出荷する、遠隔地で行われる野菜園芸をいう。山間高冷地や沿岸暖地などでの生産が含まれ、これらは道路の整備と運搬車の発達によるため、トラック園芸とよばれたこともある。生産地の気候土質など自然立地条件と野菜の生育特性、および市場の需要度と価格などを考慮して栽培する種目が決められる。たとえば、夏の高温に育ちにくいキャベツを、長野・群馬などの高冷地で夏栽培して、夏秋の端境期に市場に出荷する、南九州の暖冬を利用してサヤエンドウを早春に大阪や東京市場へ出すなどである。日本国内だけに限らず海外の地域においても輸送園芸が行われている。たとえば、日本のカボチャの種子を南半球のニュージーランドにもって行って栽培し、かの地と日本の夏冬が逆であることを利用して、冬にカボチャを日本の市場に輸入している。輸送園芸の生産・出荷は大規模で共同体制がとられる。

[星川清親]

加工園芸

加工原料となる野菜(トマトアスパラガスなど)を栽培することで、加工会社との契約栽培あるいは組合組織で加工する方式(ダイコンの漬物など)とがある。栽培は加工場を中心にその規模に応じて行われ、輸送園芸が困難な山村や僻地(へきち)にみられることが多い。

[星川清親]

生産と需要

日本のおもな野菜の作付面積と生産量を見ると、主食の米飯の副食、とくに漬物用にダイコンがもっとも多い。ハクサイもおもに漬物用で昔から生産が多い。また洋風の食事が一般化したために、キャベツ、タマネギのほかサラダ用野菜の生産が増えてきている。1960年(昭和35)と85年とを比較してみると、キャベツ、タマネギ、キュウリ、トマト、ホウレンソウなどは2~4倍、レタスは29倍、ピーマン11倍、セロリ7倍など著しい増え方である。これに対し昔からの和食用の野菜類は生産の伸びは少なく、ダイコンをはじめ、サトイモ、カボチャ、ゴボウなどはむしろ減産の傾向をたどっている。キャベツ、キュウリ、トマトをはじめ多くの野菜が1年を通じてとぎれることなく市場に供給されているが、これは前述のように、いろいろな野菜園芸の形態が、地域的、季節的にうまく組み合わされて周年生産されるようになったためである。

 野菜の生産はこのような趨勢(すうせい)にあるが、年ごとにみると変動がある。野菜は生産者から消費者への供給形態に不安定な要素を多く含むために、販売価格の変動が著しい。このため野菜園芸は投機的要素を帯びることになり、これが生産の変動を招くおもな原因となっている。

 野菜の需要は国民生活水準の高度化に伴って今後も増加するとみられる。とくに洋菜類の需要はさらに伸びると考えられる。野菜は穀物と異なって、新鮮度や形など品質が重要視されるので、貿易の自由化による外国農業との競争関係は、穀物や工芸作物の生産ほど厳しくはない。しかし貯蔵や輸送の効くタマネギ、カボチャなどについては外国産の影響をすでに受けるに至っており、今後輸送技術の発達によって、日本の野菜園芸の形態もしだいに変わっていくものとみられる。

[星川清親]

 その後、野菜の生産量は1990年代に入ると全体的に減少傾向をみせている。2006年(平成18)と1985年の生産量を比較すると、レタスは19%増加したが、キャベツ、タマネギ、ピーマンは10~15%、ホウレンソウ、トマトは20~25%、ダイコン、キュウリは35~40%それぞれ減少している。これは、野菜生産農家の高齢化や後継者不足、輸入野菜の増加によるものとみられる。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「野菜園芸」の意味・わかりやすい解説

野菜園芸
やさいえんげい
vegetable gardening

園圃または温室などで野菜を栽培すること。自給園芸 (家庭園芸を含む) のほか,商業園芸として,近郊園芸,中間園芸,輸送園芸施設園芸,加工園芸などに類別する。中間園芸は近郊園芸の延長で,従来米麦を主体としてきた中間地帯で野菜栽培をすること。施設園芸は温室,ハウス,フレームなどの施設によって栽培時期を調節し,円滑な供給を目的とする。これら施設栽培面積は 1970年代に著しい増加をみせ,なお増加傾向にあり,ハウス栽培実面積は4万 816ha (1990) で 1980年の約2倍。温室は 1900ha (90) で 80年の約 1.7倍にふえており,特にハウス栽培の伸長が注目される。加工園芸はトマトなど加工原料になるものを加工会社と契約して栽培するものと,大根などを組合組織で加工するものとがある。そのほか,採種園芸を加えることもある。なお 90年の野菜の生産量は 1456万tで,作付面積は 62万 4600haである。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の野菜園芸の言及

【園芸】より

…果樹,野菜,観賞用植物などを資本と労力をかけて集約的に栽培することで,対象とする作物の種類によって,果樹園芸,野菜園芸,花卉(かき)園芸に分類される。また,生産物の販売を目的とする園芸を生産園芸,趣味として行う園芸を趣味園芸,または家庭園芸という。…

※「野菜園芸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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