トコフェロールともいう.ネズミの抗不妊因子として発見された.小麦胚芽油,サラダ油などの植物油に存在し,ビタミンA,Dとは異なる脂溶性ビタミンであり,ビタミンEと命名された.天然には,α-,β-トコフェロールのほかに,γ-,δ-,ε-,ζ-,η-トコフェロールの7種類のビタミンEが発見され,合成されている.このうち,α-トコフェロールがもっとも効力が大きい.7種類のビタミンEはいずれもトコール,すなわち2-メチル-2-フィチル-6-ヒドロキシクロマンのメチル誘導体であり,その違いは,ベンゼン核に置換しているメチル基の数と位置が異なるだけである.たとえば,α-トコフェロールは5,7,8-トリメチルに,β-トコフェロールは5,8-ジメチルについたものである.上記はいずれも黄色の透明な粘性の油状物質で,機溶媒油脂に可溶,水に不溶.耐熱性であるが,紫外線,酸化剤などには不安定である.ビタミンEの生理作用としては,おもに,その抗酸化力により細胞の過酸化による損傷を防ぐことであると考えられている.生殖腺に対する作用のみが考えられていたが,消化管から吸収されたビタミンEは,体内の各種の器官や体脂肪に蓄積され,体内で強力な抗酸化力を示し,ビタミンAやカロテンあるいは必須脂肪酸の吸収作用を助け,ミトコンドリアやミクロソームなどの生体膜酵素においてもそれらに作用し,あるいは保護し,細胞の機能と代謝に有効な役割を果たしている.この欠乏症としては,ネズミ雌の不妊症,胎児吸収流産,雄では精子産生組織の萎縮,および永久不妊を生じる.ヒトにおいては不明なところがあるが,過酸化物による赤血球の溶血亢進,貧血,筋ジストロフィー,色素沈着,クレアチン尿症などがあげられる.[CAS 59-02-9:α-トコフェロール][CAS 148-03-8:β-トコフェロール]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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