オーストリアの物理学者、化学者。ボヘミアに生まれる。プラハとウィーンの大学に学び、工業学校の講師をしつつ科学研究を行った。1861年、論文「図式による有機化学の構造式」を書き、構造化学に先鞭(せんべん)をつけたが、これは学界にもあまり知られず埋もれてしまった。その後、気体運動論を研究、1865年「空気分子の大きさについて」という論文で分子の大きさを算定、マクスウェル以来の気体運動論の確立に大きな貢献をした。粘性の測定から求めた平均自由行路と、同じ物質の液体と気体の密度の比較から推定した気体の全体積中に占める分子自身の体積の割合との、二つのデータを基礎にしてこの計算を行った。彼の得た値では、空気分子の大きさは10-6ミリメートルとなった(これは今日知られている値のほぼ4倍である)。また単位体積中の気体分子の数が分子の種類によらないことを述べたが、その数自体を論文中には与えなかった。しかしそれは彼の与えている式から算出できる。実際、その後の論文(1867)ではその値を8.66×1017と与えている。今日、1立方センチメートルの体積に含まれる分子の数(0℃、1気圧)は「ロシュミット数」とよばれている(NL=2.6869×1019)。1868年ウィーン大学教授となり、1891年の退官までその職にあった。
原子論者として知られたボルツマンの親友であり、一貫して気体運動論の推進に努力したが、1872年にボルツマンのH定理が提出されると、まもなく「重力下にある気体の熱平衡について」という論文を書き(1876)、いわゆる「可逆性の反論」を提出してH定理を鋭く批判した。これは創造的な批判の好例といえるもので、ボルツマンの思想に深く影響を与え、統計的法則性の認識に貢献した。
[藤村 淳]
オーストリアの物理学者,化学者。1868年ウィーン大学物理化学助教授,72-91年同教授。1869年にはJ.シュテファンとともにウィーンに化学物理学会を創設した。粘性の測定から求めた平均自由行路と,同一物質の液体と気体の密度の比較から算出した気体体積中に分子の体積が占める割合とから,1865年に分子の大きさを計算(9.72×10⁻7mm),2年後には1mm3中の気体の分子数を求めた。また76年にはボルツマンのH定理に対し,それの成立しない事例を具体的に指摘し,その一般性を否定した〈可逆パラドックス〉を提出,朋友ボルツマンの気体論研究に一石を投じた。
執筆者:渋谷 一夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
オーストリアの物理学者,化学者.プラハ大学で言語学と哲学を学ぶが,J.F. Hebartの哲学に影響され,1841年ウィーン大学で自然科学を学ぶ.一時,実業界にいたが,事業の失敗後,1856年教員資格試験に挑戦して合格,ウィーンの実業学校で化学・物理学・数学を教える.結晶化学の研究でウィーン大学教授J. Stefanに見いだされ,1868年ウィーン大学物理化学助教授に就任,1872~1891年同大学教授.1861年の著書で,二重結合などの化学式表記法やオゾンの分子式などで構造化学に貢献した.1865年気体分子運動論を発展させて,平均自由行路lと気体体積中で分子体積が占める割合εから気体分子の大きさsを得る式s = 8εlを導いた.1867年にはロシュミット数を見積もる.1876年友人L. Boltzmannによる熱力学の力学的基礎づけに,“可逆パラドクス”を提出して反論した.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…基本定数の一つで,原子量の基準に従って,質量数12の炭素の同位体12Cの12g中に含まれる原子数で定義され,その値は6.0221367(36)×1023mol-1である((36)は最後の2桁に±36の誤差があることを示す)。名の由来はアボガドロの法則に基づくが,実際は1867年オーストリアのロシュミットJoseph Loschmidt(1821‐95)が論文の中で,1mm3中の気体の分子数の概算値を示したのが最初である。現在ではX線を用いて実測されているが精度には問題があり,上記の数値も精密に測定されている他の基本定数値から間接的に求められたものである。…
…基本定数の一つで,原子量の基準に従って,質量数12の炭素の同位体12Cの12g中に含まれる原子数で定義され,その値は6.0221367(36)×1023mol-1である((36)は最後の2桁に±36の誤差があることを示す)。名の由来はアボガドロの法則に基づくが,実際は1867年オーストリアのロシュミットJoseph Loschmidt(1821‐95)が論文の中で,1mm3中の気体の分子数の概算値を示したのが最初である。現在ではX線を用いて実測されているが精度には問題があり,上記の数値も精密に測定されている他の基本定数値から間接的に求められたものである。…
…以上のような経過をたどって気体分子運動論が確立されたのである。 なお,H定理に対しては1876年,ボルツマンの同僚のJ.ロシュミットは,ある瞬間に全分子の速度を逆転させると全事象の経過は逆行するはずであるから,H関数が減少する一方であることは力学法則だけからは結論できぬとの注意を与えている。これを可逆性の背理と呼ぶ。…
※「ロシュミット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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