フランスの小説家。ロシュフォールの生まれ。本名Julien Viaud。幼いころから孤独で夢想的な性格で、ベンガル湾で死んだ兄のように船乗りになりたいと思った。海軍兵学校を出て海軍士官となり、南太平洋のポリネシアを振り出しに、イスタンブール、中国、日本、パレスチナなどを歴航、各地で見聞した印象をもとに、官能的で異国趣味的な作品を書いた。1885年(明治18)7月から9月までと、1900年の暮れから翌年の春にかけての2回、日本に滞在、『お菊さん』(1887)、『日本の秋』(1889)、『お梅が三度目の春』(1905)などの作品を書き、明治の日本を辛辣(しんらつ)に観察している。小泉八雲(やくも)と並び早くから日本を海外に紹介した。彼は、本能と習慣と未熟な思想をもって生活する人たちの幸せにあこがれ、ブルターニュの漁夫、バスクの密輸入者、タヒチ娘の生活などに興味をもった。しかし、そこにも結局空(くう)の空(くう)なるものを感じた彼は、新しい興味を他の土地の人々の生活のなかに求めた。彼の精神の根底にあるものはペシミズムであろう。作品はほかに、『アジャデ』(1879)、『ロチの結婚』La Mariage de Loti(1880)、『アフリカ騎兵』(1881)、『氷島の漁夫』(1886)、『東方の幻影』(1892)、『ラムンチョ』(1897)などがある。アカデミー会員
[根津憲三]
『村上菊一郎・吉氷清訳『秋の日本』(角川文庫)』▽『渡辺一夫訳『アフリカ騎兵』(岩波文庫)』▽『吉江喬松・吉氷清訳『氷島の漁夫』(岩波文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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