七十人訳聖書(読み)しちじゅうにんやくせいしょ

改訂新版 世界大百科事典 「七十人訳聖書」の意味・わかりやすい解説

七十人訳聖書 (しちじゅうにんやくせいしょ)

旧約聖書のギリシア語訳の一つ。前3世紀中葉に始まり前1世紀までに,アレクサンドリアパレスティナなどで徐々に翻訳され,改訂された集成を総称する。〈律法〉部分の翻訳については《アリステアスの手紙》に成立事情の伝承が残されている。〈セプトゥアギンタSeptuaginta〉(略号LXX,ラテン語で70の意)と呼ばれるのは,最初の〈律法〉の翻訳が72人の翻訳者によったことと関係するとする説と,〈70〉が旧約聖書で権威ある数を示すことによる〈権威的〉翻訳の意であるとの説がある。現在,ほぼ完全な形では,後4,5世紀のギリシア語大文字冊子本に残され,それらと後2世紀のパピルス本などが照合され,校訂版が出版されている。もっとも権威のある学問的校訂版は《セプトゥアギンタ・ウェトゥス・テスタメントゥム・グラエクム・アウクトリタテ・アカデミアエ・スキエンティアルム・ゲッティンゲンシス・エディトゥム》(通称《ゲッティンゲン・セプトゥアギンタ》)である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「七十人訳聖書」の意味・わかりやすい解説

七十人訳聖書
しちじゅうにんやくせいしょ

今日では紀元前3世紀中葉から紀元2世紀にわたってなされたギリシア語訳の『旧約聖書』を総称していう。「セプトゥアギンタ」Septuaginta(70の意)ともよばれ、LXXと略記する。これは『旧約偽典』の「アリステアスの手紙」がその成立事情を記し、プトレマイオス2世フィラデルフォス(在位前283~前247)の治世に、『旧約聖書』(原典はヘブル語)の5書の最初のギリシア語訳が、パレスチナから派遣された72人の長老により72日間でなされたとしたことによる。しかしこの伝説は伝説として、「七十人訳」の名称は、今日では五書にとどまらず、『旧約聖書』全体の最古のギリシア語訳の意に用いられている。キリスト教会がその形成期にこれを用いた。紀元2世紀以後はもっぱらキリスト教会で書写伝達された。

[秋輝雄]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「七十人訳聖書」の解説

七十人訳聖書(しちじゅうにんやくせいしょ)
Septuaginta

旧約聖書のギリシア語訳。伝説では前3世紀,アレクサンドリアで72人の学者がヘブル(ヘブライ)語から訳したという。ラテン語で70を意味するLXXで表す。キリスト教徒はヘブル語よりもこちらを重視した。ローマ時代の共通ギリシア語(コイネー)最大の文書

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デジタル大辞泉プラス 「七十人訳聖書」の解説

七十人訳聖書

紀元前3世紀中ごろから紀元前1世紀ごろまでにパレスティナ、アレクサンドリアなどで翻訳された、旧約聖書のギリシア語訳版の総称。名称は、最初の部分のヘブル語からの翻訳を、パレスティナからきた72人の長老が72日で成し遂げた、という伝説に基づく。「セプトゥアギンタ」ともいう。

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世界大百科事典(旧版)内の七十人訳聖書の言及

【旧約聖書】より

…〈律法〉と〈預言者〉はユダヤ教の会堂で安息日ごとに朗読された。原典をギリシア語に訳した《七十人訳聖書》は,原典の配列を変えて,五書,歴史書,文学書,預言書の順に置き,〈小預言書〉を12の預言書にばらすなどして,全体を39巻にした。これが今日に及ぶ翻訳聖書の伝統となった。…

【聖書】より

…以上ヘブライ原典は合計24巻より成る。 ギリシア語訳(《七十人訳聖書》)はヘブライ原典と同じく律法書の優位を認めてこれを冒頭に置いているが,それ以外の部分に原典にはない文書(アポクリファ,後述)を含み,また原典にある書物についても,その配列と区分の仕方が原典とは異なっている。〈諸書〉は分解されて《ルツ記》や《歴代志》などの書物が〈前の預言者〉に加えられた。…

【ディアスポラ】より

…しかも,離散の地が仮寓の地であることを自覚していたため,努めてエルサレム神殿に巡礼し,エルサレム神殿のために毎年1人半シケルの献金をする習慣を守っていた。彼らのコミュニティの中心は,シナゴーグ(会堂)における礼拝であったが,この礼拝に用いるために,前3世紀ごろ,アレクサンドリアにおいて旧約聖書がヘブライ語原典からヘレニズム世界の共通語であったギリシア語に翻訳された(《七十人訳聖書》)。各地のシナゴーグとギリシア語訳聖書は,1世紀にローマ帝国で起こったキリスト教の急速な伝播を可能にした。…

※「七十人訳聖書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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