〈共通語common dialect〉の意。古代ギリシアでは前5世紀にアテナイが政治・文化の中心になるとともに,その言語であるアッティカ方言Atticが,他の方言を抑えてギリシア語を代表する位置を占めるにいたった。そしてこれにイオニア方言Ionicを加え,アッティカに固有の形を除いて,一つの共通語が形成された。これがマケドニアのアレクサンドロス大王の遠征によって広くヘレニズム世界に拡大し,ローマ帝国の崩壊に至る長い間,東地中海の標準語として用いられた。その後もコイネーはまた西のラテン語と並んで東のギリシア正教の用語となり,ビザンティン時代を経て現代ギリシア語に発展する。
コイネーの資料としては,碑文と並んでヘレニズム世界の中心であったエジプト出土の多量のパピルス文書がある。その中には公の内容をもったもののほかに,私的な手紙や勘定書のような,当時の日常生活を伝える興味ある文書が含まれている。またエピクロスのような,古典期以後のギリシア作家の著作からも当時のギリシア語の実状がうかがわれるが,とりわけ重要なものは,ヘブライ語から訳された旧約聖書と,新約聖書の原典であろう(《七十人訳聖書》)。これにみる限り,古典ギリシア語のもつ文法の不規則があらゆる面で規則化され,格の用法や動詞の法などにも単純化が進んでいる。聖書のギリシア語は,宗教上のみならず,翻訳を通じてラテン語をはじめヨーロッパの諸言語の形成に強い影響をあたえた。
→ギリシア語
執筆者:風間 喜代三
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アッティカ方言を根幹に,その他の方言が混合してできあがった古代ギリシアの共通語。混合の過程はすでに前4世紀前半から始まり,ヘレニズム世界の公用語となる。七十人訳聖書および新約聖書はコイネーの代表的文献。
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