日本大百科全書(ニッポニカ) 「監査手続」の意味・わかりやすい解説
監査手続
かんさてつづき
audit procedures
監査人(公認会計士または監査法人)が、財務諸表に対する会計監査にあたり、監査証拠を入手するために実施する手続。監査人は、まず監査対象である財務諸表に重要な誤りがないかどうかを評価し、どのような監査手続を採用するかを決定する。この手続をリスク評価手続(リスク・アプローチ)という。次に、監査意見表明のために必要な監査証拠を得るために、財務諸表項目に対して監査要点を設定し、これらに適合した十分かつ適切な監査証拠を入手する。この手続をリスク対応手続という。監査要点は六つあり、売掛金勘定に例をとると次のようになる。
(1)実在性 売掛金は実際に売上げによって計上されたものであるか。
(2)網羅性 売掛金はすべて計上されているか。
(3)権利と義務の帰属 売掛金はすべて会社が回収する権利を有するものか。
(4)評価の妥当性 売掛金に対して適正な貸倒引当金が設定されているか。
(5)期間配分の適切性 売掛金は当期までにすべて実現したものか。
(6)表示の妥当性 売掛金の表示は妥当であるか。
これらの監査要点に従って監査をする際の具体的監査手続については、おもに次のようなものがある。
(1)実査 現金預金や有価証券などの現物のある資産について、実際の存在、数量、使用状況等を確認する手続。
(2)立会 資産の実在性や数量の正確性を確かめるために、監査人が会社の実地棚卸に出向いてその状況を調べる手続。
(3)質問 従業員、役員等に口頭や文書で問い合わせをして、説明を求めること。
(4)視察 監査人が会社の全般的な状況や業務の進行状況等を観察すること。
(5)閲覧 各種の書類を査閲し、必要な情報を入手すること。
(6)突合せ 監査項目と関連する証拠を照らし合わせること。
[中村義人 2022年11月17日]
『EY新日本有限責任監査法人編『勘定科目別不正・誤謬を見抜く実証手続と監査実務』3訂(2019・清文社)』