日本大百科全書(ニッポニカ) 「世界のおもな国歌」の意味・わかりやすい解説
世界のおもな国歌
せかいのおもなこっか
アメリカ合衆国 The Star-Spangled Banner(星条旗)
1814年、イギリス・アメリカ戦争(一八一二年戦争)のとき、アメリカの弁護士F・S・キーがマック・ヘンリーの要塞(ようさい)に翻る星条旗を見て作詞。曲は18世紀のイギリスの旋律(J・S・スミスの作曲といわれる)を流用。1931年3月、正式に国歌に選定。歌詞は三番まである。
イギリス God Save the Queen (King)(神よ女王(王)を守りたまえ)
1745年、コベント・ガーデンなどの劇場で歌われ、以来国歌として広く親しまれる。19世紀には、歌詞をかえた形で約20か国の国歌として歌われた。その名残(なごり)がリヒテンシュタインの現国歌である。旋律は、ベートーベン、ウェーバー、ブラームスらの作品に引用されている。歌詞は三番まである。
イタリア Inno di Mameli(マメリ賛歌)
愛国詩人ゴッフレード・マメリ作詞。初め1847年にM・ノバーロの作曲したものが歌われていたが、翌48年ベルディが新しく曲をつけ、これが1946年の共和国設定を機に国歌として制定された。
インド Jana Gana Mana(インドの朝)
R・タゴール作詞・作曲。1949年制定。
インドネシア Indonesia Raja(大インドネシア)
W・R・スプラトマン作曲。国粋党の党歌の歌詞を改訂し、1949年国歌として定めた。歌詞は三節まである。
オーストラリア
1875年ごろから国民歌として歌われていたコーミック作詞・作曲のAdvance Australia Fair(祝えや国民)が、イギリス国歌にかわって、1984年4月正式に国歌として制定された。
オーストリア Land der Berg, Land am Strom(山の国、川の国)
女流詩人P・プレラドビクの詩に、モーツァルトのフリーメーソンの小カンタータ『われらが喜びを高らかに告げ』(K623)の旋律をつけたものといわれている。1947年国歌として制定。
オランダ Wilhelmus van Nassouwe(われはナッソウエのウィルヘルムなり)
古くから広く親しまれてきた旋律に、16世紀後半歌詞がつけられたもので、国歌最古の例といわれる。1815年に連合王国が成立したときには別の歌が国歌に定められたが、20世紀初頭からは現在のものに徐々に移行していった。この旋律を主題にしたピアノ変奏曲がモーツァルトによって作曲(K25)されている。
カナダ
正式の国歌はイギリスと同じだが、Maple Leaf Forever(楓(かえで)よ永遠に)がイギリス系、O Canada(おおカナダ)がフランス系の人々によって国民歌として歌われている。
ギリシア
D・ソロモス作詞の158節からなる長編叙事詩に、N・マントツァロス作曲の「するどき刃(やいば)に」を1863年国歌として制定。
スイス
イギリス国歌の曲を用いたものが独・仏・伊三様の歌詞で歌われていたが、1961年、L・ウィドマー作詞、A・ツウィシヒ作曲の「スイスの聖歌」が正式の国歌に制定された。独・仏・伊のほかロマンス語および英語の歌詞もある。
スウェーデン
正式に制定された国歌はない。国民歌として「古き自由な北の国」が広く用いられている。
スペイン Marcha Real(国王行進曲)
1770年9月、カルロス3世がスペイン王行進曲として用いたというもので、1942年フランコ将軍により国歌として制定された。いろいろの歌詞が付されているが、正式の歌詞はない。
スロバキア Nad Tatrou sa blyska(タトラの嵐)
スロバキアのフォークソング(民族歌謡)に、1844年、J・マチューシュカが歌詞をつけたもの。チェコスロバキア時代は、チェコの現在の国歌と同国歌がつなげて歌われていた。
大韓民国
「愛国歌」。1946年、安益泰作曲。作詞者不詳。
チェコ Kde domov můj ?(わが国いずこや)
1834年にフィドロバチカという戯曲のなかで初めて歌われたもの。作曲はF・シュクロウプ。チェコスロバキア時代は、同国歌とスロバキアの国歌がつなげて歌われていた。
中華人民共和国
「義勇軍行進曲」。田漢作詞、聶耳(ニエアル)作曲。1932年に書かれ、49年国歌として制定された。
北朝鮮
朴世永作詞、金元均作曲の「朝は輝け」。
デンマーク Kong Christian stod ved højen Mast(帆柱(ほばしら)に立ちて、クリスティアン王は)
古いデンマーク民謡に基づき、D・L・ロゲルトが作曲、J・エワルドが作詞したもの。1776年国歌として制定。3番まである。
ドイツ連邦共和国 Einigkeit und Rechtund Freiheit
かつてオーストリア国歌として歌われていたハイドン作曲(1797)の『神よわれらの皇帝を守りたまえ』の旋律が用いられている。この旋律は1922年から「世界に冠たるドイツ」という歌詞でドイツ国歌となり、第二次世界大戦後の1950年、その第3節「統一と権利と自由」のみを正式に西ドイツの国歌として制定、1990年の東西ドイツの再統一後もそのままドイツ国歌となっている。
トルコ Istiklâl Marsi(独立行進曲)
A・エルソイ作詞、Z・ユンゲル作曲。1921年国歌として制定。
ノルウェー Ja, Vi Elsker Dette Landet(われらが愛する山の国)
1859年B・ビョルソンが作詞したものに、64年R・ノルダークが作曲。同年国歌として制定された。
バチカン市国 Inno e Marcia Pontificale(法王賛歌および行進曲)
グノー作曲の旋律にA・アレグラが作詞。ローマ教皇出御のときなどに奏される。1949年国歌として制定。
フィリピン
J・パルマ作詞、J・フェリペ作曲。1898年6月12日、独立宣言の日に初演。スペイン語の歌詞のほかにタガログ語の歌詞もある。
フィンランド Maamme(たたえよ 祖国を)
1846年J・L・ルーネベルクが作詞し、48年F・パシウスが作曲。歌詞はフィンランド語とスウェーデン語の二通りある。
ブラジル Ouriram do Ypiranga as margens placidas(静けきイピランガの岸辺に)
O・D・エストラダの歌詞に、ペドロ2世の宮廷音楽家であったF・M・D・シルバが作曲。1922年に国歌として制定。
フランス La Marseillaise(ラ・マルセイエーズ)
1792年、フランス義勇軍の工兵大尉ド・リールが作詞・作曲した。同年8月、マルセイユの義勇兵大隊がこの歌を歌いながらチュイルリー宮殿を襲撃したため、「ラ・マルセイエーズ」と俗称されるようになった。1795年国歌として制定。歌詞は七番まである。旋律は、シューマンの歌曲『二人の擲弾兵(てきだんへい)』、チャイコフスキーの『序曲1812年』などに引用されている。
ペルー
T・ウガルテ作詞、J・B・アルセド作曲の「長き苦しみの日」。1821年公募の結果、歌詞を一部改訂し、1912年国歌として制定された。歌詞は六番まである。
ベルギー La Brabançonne(ラ・ブラバンソンヌ)
1830年革命戦争中にC・カンプヌウが作曲し、60年C・ロジェーが歌詞を改作した。歌詞は四番まである。
ポーランド
1795年ごろから愛唱されていたJ・ウィビツキ作詞・作曲の「軍隊の歌」が、1927年国歌として正式に制定された。歌詞は三番まである。
ロシア連邦
M・エグリンカ作曲の「ツアー(皇帝)のための一生」を、ソビエト連邦崩壊後の1991年に国歌とした。歌詞はない。