最新 地学事典 「中性子線回折」の解説
ちゅうせいしせんかいせつ
中性子線回折
neutron diffraction
結晶による中性子線の回折現象は,Halban・PreiswerkおよびMitchell・Powersにより1936年実験的に初めて確かめられ,原子炉の出現により45年以後この方法は急速に発展し,回折結晶学の重要な一部門となった。速さvで動く中性子の伴うde Broglie波の波長は,質量をm,プランク定数をhとすると,h/mvで,結晶の格子振動エネルギー程度の運動エネルギーをもつ熱中性子の波長が0.1nm前後となる。したがって熱中性子線を結晶に当てるとX線と同様回折を起こし結晶構造に関する情報をもたらす。中性子の散乱は主として原子核による散乱であるが,不対電子が存在して原子が全体として磁気モーメントをもつときには磁気的散乱が起こる。中性子の原子核による散乱がX線の原子による散乱と著しく異なる点は,1)散乱振幅が散乱角にほとんど依存しない,2)散乱振幅と原子番号の間に規則性がない,3)散乱波と入射波の位相差は大部分の原子核ではπであるが少数のものでは0,4)同位体を区別できる,などである。磁気的散乱はX線と同様散乱角の増大とともに減少する。中性子線回折の利点は,1)水素原子のような原子番号の小さい原子の位置を正確に決められる,2)原子番号が接近している原子の区別をつけられる,3)磁気的構造を知ることができる,4)回折に用いられる中性子線のエネルギーが格子振動の程度であるため温度散漫散乱は非弾性的となり格子振動の研究に適する,などである。X線回折との実験上の違いは,1)X線のような集中した強い中性子線源が得られないので0.5~1cm程度の大きい結晶を使う,2)原子炉内の熱中性子はマクスウェルの運動分布をしていて,そのなかから適当な波長のものを単色化して取り出さねばならない,3)厚い遮へいをしなくてはならない,4)以上のことから装置が非常に大きくなる,などである。
執筆者:丸茂 文幸
出典 平凡社「最新 地学事典」最新 地学事典について 情報

