中距離核戦力条約(読み)ちゅうきょりかくせんりょくじょうやく(その他表記)Treaty on Intermediate range Nuclear Force

知恵蔵 「中距離核戦力条約」の解説

中距離核戦力条約

地上に配備された中距離核戦力(INF)の全面的な廃止を定めた条約。米・レーガン大統領とソ連・ゴルバチョフ書記長が1987年に結び、翌88年に発効した。廃止の対象となった中距離核戦力は、準中距離を含む射程距離500~5500キロメートルの核ミサイル及び発射基地・関連施設である。核弾頭不搭載の中距離弾道ミサイルも含み、保有だけでなく、将来的な生産・実験も禁止した。対象地域は事実上ヨーロッパのみだったが、一つのカテゴリーの核戦力を全面廃止したという点で極めて画期的であり、その後の米ソ冷戦の終結、世界的な核軍縮の動きへの足がかりとなった。条約発効から3年後の91年には、両国が保有していた約2700基の廃棄が完了した。
その後、2007年にロシア・プーチン大統領が、規制対象を米ロの2国から多国間に拡大すべきと主張。米国防長官との会談では、条約破棄の可能性も示唆した。しかし、10年に米・オバマ大統領とロシア・メドベージェフ大統領が、新戦略兵器削減条約(新START)を締結(翌11年発効)。核削減の流れを後戻りさせることはなかったが、双方とも条約抵触の疑いがある弾道・巡航ミサイルの開発は止まらず、互いに抗議や条約違反の申し立てを繰り返してきた。
17年に誕生した米・トランプ政権は、ロシアの新型ミサイル9M729が条約に違反していると警告。これにロシア・プーチン大統領が対抗姿勢を強めると、18年10月トランプ大統領は条約から離脱する意向表明し、19年2月ロシアに正式に通告した。プーチン大統領もこれを受け、離脱を表明。両国とも大量のINFを保有・開発している中国に脅威を抱いており、条約破棄は「新軍事大国」中国への対抗を念頭に置いたものとも指摘される。規定では、通告から6カ月後に失効する(2019年2月末時点)。

(大迫秀樹 フリー編集者/2019年)


中距離核戦力条約

地上配備の中距離核ミサイル(intermediate‐range nuclear missile、射程1000〜5500km)及び準中距離核ミサイル(medium‐range nuclear missile、同500〜1000km)の条約発効後3年以内の全廃を定めた米ソ(ロ)の条約。1987年調印、88年発効、91年廃棄完了。米ソ間の特定核兵器の史上初の全廃条約で、冷戦終結の契機となった。

(坂本義和 東京大学名誉教授 / 中村研一 北海道大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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