改訂新版 世界大百科事典 「九雲夢」の意味・わかりやすい解説
九雲夢 (きゅううんむ)
李朝の文臣,作家,金万重(きんまんじゆう)の小説。作者は晩年の1690年(粛宗16),王子冊立問題に関連して南海に島流しになったが,その間,郷里にいる老母を慰めようとして作ったといわれる。小説の舞台は中国の衡山にある蓮花峰で,隠者の六観大師が弟子の性真に人生の無常,輪廻思想を悟らせるために,現世と来世にかけて8人の仙女との出会いにより因果応報の理を悟得させてゆく過程を描いている。1人の男性と8人の女性との現世での行状は,つまるところ浮雲のごときであり夢にすぎないという思想を表題としたもので,作品には一夫多妻の巧みな合理化と,儒・仏・道三教の渾然たる一致境,それに楽天的な人生の享楽思想が表現されている。また《紅楼夢》などの影響を受けていたことは確かである。これが発表されると大反響を呼び,《玉楼夢》《玉蓮夢》その他多くの亜流作を生んだ。朝鮮における〈夢〉を媒介にした小説に先鞭をつけたこと,堂々と作者名を明記して発表したことにも意義がある。
執筆者:金思燁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報