中国,湖南省の北部,長江(揚子江)の南岸にある中国第2の淡水湖。南と西からは湘江,資水,沅江,澧水(れいすい)の4河川が注ぎ,北からは長江の増水期に松滋,太平,藕池(ぐうち),調弦の4口から大量の泥水が注ぎ,岳陽県城陵磯より再び長江へ注ぐ。湖面は季節による変化が大きいが,4口から毎年運び込まれる大量の泥砂により,東西に比較的幅の広い1条の砂州を形成し,もとの洞庭湖を東洞庭,南洞庭,西洞庭と大通湖など小さな湖沼群に分割した。1977年現在,湖の面積は2740km2しかなく,1896年の約50%に縮小し,中国最大の湖の地位を鄱陽(はよう)湖に譲った。昔〈八百里の洞庭〉といわれた巨大な湖の面影はもはやない。泥砂の堆積により浅くなった湖岸には垸堤と呼ばれる堤防がめぐらされ,堤防の内側に垸田と呼ばれる新田が広く造成されたが,これが諸河川の湖への流入を妨げ,水害の原因となったので近年は垸堤の築造は禁止された。解放後,大規模な整備工事が行われ,湘江,資水に放水路を設け,遊水池や堤防も改良され,開墾地区をきりひらいて洪水の脅威を小さくした。湖では淡水養殖が盛んで草魚などが大量に養殖されるほか,湘蓮が有名である。
執筆者:林 和生 〈洞庭〉という語は,のちの道教では洞窟の庭を意味し,一個の普通名詞として多用されたが,洞庭湖の命名が洞窟とかかわるかどうかは文献的に証明できない。この大湖が洞庭の名で呼ばれるようになるのは戦国時代からで,《楚辞》には〈洞庭波だって木葉下る〉(九歌・湘夫人)のほか,いくつかの用例がある。《荘子》天運篇に〈黄帝が咸池(かんち)という楽曲を洞庭の野で演奏した〉という記述がみえることから推せば,当時の人々にとって〈洞庭〉という語は,天地の間にひろがる大広場のようなものとしてイメージされていたのかもしれない。魏晋南北朝時代に入ると,洞庭湖の周辺に洞庭すなわち大洞窟があると信じられるようになり,君山(洞庭湖中にある名山)も洞庭山と呼ばれた。のみならずこの洞窟は,はるか東方の呉の太湖(江蘇省)にあるという洞窟と地底の道によって結ばれているとされ,太湖中の包山も洞庭山と呼ばれるようになった。この名称は今に伝わり,東洞庭山と西洞庭山は太湖遊覧の著名な景勝地である。
執筆者:三浦 国雄
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中国、湖南省北部にある湖で、鄱陽湖(はようこ)に次ぐ中国第二の大淡水湖。長江(ちょうこう/チャンチヤン)(揚子江(ようすこう))の南側にあり、面積2860平方キロメートル、湖面の標高34.1メートル、水深は30.8メートルに及ぶ。南方および西方から湘江(しょうこう)、沅江(げんこう)、澧水(れいすい)、資水の湖南省の四大河川が注ぐほか、北方の松滋(しょうじ)、太平、藕池(ぐうち)、調弦(ちょうげん)の四つの水路を通って、増水期には長江の水が流入する。また、北東端の岳陽(がくよう/ユエヤン)市城陵磯(じょうりょうき)で長江に排水している。
このように大量の水を呑吐(どんと)するため、増水期と減水期とでは湖面の面積に大差がある。しかも年2400万立方メートルも流入する4河川の堆積(たいせき)物のほか、とくに北方の4水路を通じて長江の泥が年平均1億1800万立方メートル(全体の82%)も流入する結果、湖面はしだいに縮小し、ことに北部では大面積の逆デルタが発達、さらに湖面干拓も行われたため、かつて「八百里洞庭」とよばれて中国最大の淡水湖であったものが、いまでは鄱陽湖より小さくなっている。湖面も分割され、東、西、南の三つの洞庭湖や大通(だいつう)湖など大小多数の湖水に分かれている。しかし現在も中国の重要な淡水養殖基地の一つであり、蓮根(れんこん)の産出も多い。また、長沙(ちょうさ/チャンシャー)、常徳、益陽、岳陽など湖南省各地のほか、長江沿岸の武漢(ぶかん/ウーハン)などとの間にも航路が開け、水運が盛んである。
[河野通博]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…中国中部,長江(揚子江)の中流域,洞庭湖の南方に位置する省。面積21万0500km2,人口6428万(1996)。…
…【村下 重夫】
[中国]
中国で〈湖は都なり〉と説明されることがあるのは,都に人と物資が集まるように,四方の水流が集まり注ぎこむためである。現在の洞庭湖,鄱陽(はよう)湖,太湖などの江南の湖は,古代においても有名であった。雲夢沢(うんぼうたく)とよばれたのは,現在の洞庭湖を含んでより大きく湖南・湖北両省にひろがっていた大湖沼であろうと考えられる(雲夢)。…
※「洞庭湖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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