改訂新版 世界大百科事典 「事前準備」の意味・わかりやすい解説
事前準備 (じぜんじゅんび)
刑事訴訟において,起訴後の手続は公判期日における当事者(検察官と被告人,弁護人)双方の攻撃防御を軸に進められていく(当事者主義)。その審理を充実したものとするためには,その場その場の対応によるのではなく,事前の周到な準備に基づく活動が望まれる。集中審理を実現するためにも,これはきわめて大切なことである。このために訴訟関係人が第1回公判期日前に行う訴訟の準備が事前準備である。
検察官は,捜査の資料を整理・点検して立証計画をたてるとともに,弁護人との打合せを行う。弁護人は,防御側当事者として,それに相応じた準備活動をする。すなわち,検察官は,取調べの請求を予定する証拠書類・証拠物について相手方に閲覧の機会を与え,また尋問予定の証人等についてはその氏名・住居を知る機会を与える。このことは,弁護人においても同様である。証拠書類・証拠物については,それを証拠とすることに同意するか(刑事訴訟法326条),またその取調べの請求に異議がないかどうか,お互いにその見込みを相手方に通知する。ここで,もしある者の供述調書が不同意となれば,その者を公判廷に証人として喚問するようにとりはかられることになろう。弁護人は,被告人その他の関係者に面接するなどして,事実関係を確かめておく。さらに,起訴状の訴因・罰条を明確にしたうえで,弁護側として争うつもりのない事項と争おうとする事項を明らかにし,公判審理での争点を整理することが重要である。そして,証拠調べその他の審理に要すると思われる時間など,裁判所が開廷回数の見通しをたてるについて必要な事項を申し出る。なお,検察官・弁護人とも,第1回公判期日で取り調べられる見込みのある証人について,あらかじめ出頭の手配をするように努めるべきものとされる。裁判所としては,いまだ事件の実体にかかわるような活動はできないが,手続の進め方などについて,両当事者と連絡をとり,打合せをすることができる(刑事訴訟規則178条の2~178条の11)。
執筆者:米山 耕二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報