犯罪の嫌疑を受けて,検察官により起訴(公訴の提起)された者をいう。共犯事件などで複数の者が起訴され,同一の訴訟手続で同時に被告人となることがあるが,これを共同被告人という。
かつての糾問的裁判では,被告人は,裁判官により一方的に取り調べられ断罪される裁判の客体にすぎなかったが,現在の訴訟制度では,被告人は,検察官と並んでこれに対立する訴訟の当事者・主体とされている。これは,検察官と被告人とを対等の立場で十分論争させたうえで裁判官が裁定を下すことが,被告人の人権保障と真実の発見に必要不可欠と考えられるからである。
被告人には,このための手段として,種々の権利が与えられている。検察官の攻撃に対して防御するための〈防御権〉がその中心で,証人審問権(憲法37条2項),弁護人依頼権(同条3項),黙秘権(憲法38条1項,刑事訴訟法311条1項)などがある。
被告人が黙秘権を行使せず,任意に供述した場合には,利益・不利益にかかわらずその供述は証拠となる。刑事訴訟法も,被告人が任意に供述する場合には,裁判官,検察官,弁護人などは,いつでも必要な供述を求めることができるとしている(刑事訴訟法311条2,3項)。これを被告人質問というが,任意に供述する場合にのみ質問が許される点で,供述義務が課せられる証人尋問(304条)や,旧刑事訴訟法の被告人訊問(旧刑事訴訟法338条)と異なる。なお,英米法では,被告人がみずから自分の事件の証人となることを認め,この場合,黙秘権を放棄したものとして供述義務が課され,虚偽の供述は偽証罪で罰せられる。しかし,日本の刑事訴訟法では,被告人を証人とすることはできないと考えられている。
被告人に強制処分を行うことは望ましいことではないが,刑事裁判の性質上これは避けられない。刑事訴訟法は,被告人を召喚(刑事訴訟法57条),勾引(58条),勾留(60条)し,身体・所有物などを捜索(102条),押収(99条)することなどを認めている。
被告人には〈無罪の推定〉がなされ,有罪が証明されて判決が確定しないかぎり無罪として扱われる。〈疑わしきは被告人の利益に〉ともいう。〈たとえ10人の犯人を逃しても,1人の無実の者を罰してはならない〉からである。
→証明責任 →当事者主義 →被疑者
執筆者:平川 宗信
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犯罪の嫌疑を受け、検察官により公訴を提起され、または提起されたとして取り扱われている者をいい、刑事訴訟上の用語。被告人は、無罪の推定を受け、検察官と対立する対等な訴訟主体であって、検察官の攻撃から自らを防御する地位にある。そのために、黙秘権(憲法38条1項、刑事訴訟法311条1項)、弁護人依頼権(憲法37条3項、刑事訴訟法30条)、弁護人との接見交通権(刑事訴訟法39条)、証拠保全請求権(同法179条)、証拠調べ請求権(同法298条1項)、証人審問権(憲法37条2項)、迅速な裁判を受ける権利(憲法37条1項)等の権利を保障されている。
とはいえ、被告人には、手続の対象としての地位もあり、公判に出頭する義務を負い、勾引(こういん)、勾留等の強制処分の客体にもなる。さらに、その任意の供述が証拠となり、その身体が検証の対象となることもあり、証拠方法としての地位も有する。
[大出良知]
…一定の犯罪を犯した嫌疑(容疑)があるとして捜査機関による捜査の対象になっている者で,いまだ公訴が提起されていない者をいう。公訴が提起された後は,被告人と呼ばれる。ヨーロッパ大陸諸国では,被疑者は,捜査機関による取調べの対象という性格が強いが,英米法では,被疑者にも,被告人に準じた,捜査機関に対立する当事者としての性格が強く認められ,被疑者にできるだけ多くの訴訟法上の権利を与えることが図られている。…
※「被告人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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