裁判所その他の機関(国会の両議院、地方議会)に対し自己の経験から知りえたことを供述するよう命ぜられる第三者をいう。
[内田一郎 2018年4月18日]
人証の一種で、訴訟外において実際に経験した事実を裁判所に対して陳述する訴訟の第三者をいう。
(1)証人には出頭の義務があり(刑事訴訟法150条、151条、152条、153条の2、162条)、宣誓の義務があり(同法154条、160条、161条)、証言の義務がある(同法160条、161条)。宣誓した証人が虚偽の陳述をした場合は偽証罪に問われる(刑法169条)。守秘義務を負う公務員または公務員であった者が知りえた公務上の秘密に関する事実について証人尋問をするには、当該監督官庁(刑事訴訟法144条本文)、衆議院または参議院(同法145条1項1号)、内閣(同法145条1項2号)の承諾を要する場合がある(同法144条但書、145条2項)。他方、証人の権利として、何人(なんぴと)も自己または法定の近親者が刑事訴追を受けまたは有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができる(証言拒絶権)(同法146条、147条)。憲法第38条1項の自己負罪拒否特権に基づく権利である。ただし、2016年(平成28)の刑事訴訟法改正により、いわゆる刑事免責制度が導入されたので、証人に刑事免責を付与してその証言拒絶権を消滅させたうえ、証人の証言義務に従って証言を強制することが可能となった(同法157条の2、157条の3)。また、一定の職にある者またはあった者は、業務上委託を受けたために知りえた他人の秘密に関する事実について、原則として証言を拒むことができる(同法149条)。なお、証人には、旅費・日当・宿泊料の請求権がある(同法164条1項)。
(2)証人保護の制度として、第一に、公開法廷における証人保護として、2007年の刑事訴訟法改正は、性犯罪等一定の事件の場合に、被害者証人の氏名・住居その他被害者を特定させる事項を公開の法廷で明らかにしない決定(被害者特定事項の秘匿)をすることができることとなった(同法290条の2)。この証人保護は、2016年の刑事訴訟法改正により、被害者以外の証人一般に認められることになり、証人に対する加害のおそれや証人の平穏が害されるおそれがある等の場合に、証人等を特定する事項を公開の法廷で明らかにしない秘匿決定をすることができるようになり(同法290条の3)、その他起訴状や証拠書類の朗読にあたっての証人特定事項の秘匿決定も可能となった(同法291条2項・3項、305条3項・4項、295条4項)。第二に、被害者等の証人尋問の方法について、2000年の刑事訴訟法改正により、いわゆるビデオリンク方式の証人尋問が可能となった。裁判所は、同一構内にある公判廷以外の場所に証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することのできるビデオリンク方式によって尋問することができる(同法157条の6第1項)。なお、2016年の刑事訴訟法改正により、上記の同一構内に限ったビデオリンク方式が改められ、同一構内以外の場所(たとえば遠隔地の裁判所)でのビデオリンク方式による証人尋問も可能となった(同法157条の6第2項)。また、被告人や傍聴人の面前で証言することの精神的負担を軽減するため、証人と被告人や傍聴人との間に衝立(ついたて)などの遮蔽(しゃへい)措置をとることができることとなった(同法157条の5)。さらに、証人が著しく不安または緊張を覚えるおそれがある場合には、適当な者を証人付添人とすることができるとされた(同法157条の4)。第三に、証拠開示における証人保護措置として、まず1999年(平成11)の刑事訴訟法改正は、検察官は、証人等の身体・財産への加害行為等を防止するため、証人等の住所等を関係者に知られないようにする配慮を求めることができるとしたが(同法299条の2)、2007年の刑事訴訟法改正により、被害者特定事項を被告人等に知られないようにすることを求めることができるとされ(同法299条の3)、さらに、2016年の刑事訴訟法改正により、証人等の氏名・住所を被告人に知らせない旨の条件付開示の措置(同法299条の4第1項)または氏名にかわる呼称や住居にかわる連絡先を知る機会を与える代替開示の措置が認められた(同法299条の4第2項)。
[内田一郎・田口守一 2018年4月18日]
民事訴訟の証人とは、裁判所の命により自ら過去において実験した具体的事実を裁判所において供述すべき訴訟の第三者をいう。証人の証言によって、当事者の事実上の陳述の真偽を判断するものであるから、当事者および当事者を代表する法定代理人には、証人としての適格はないが、そのほか、事実を認識することができ、かつ裁判所でそれを供述できる者には、すべて証人としての能力がある(民事訴訟法190条以下)。したがって、民事事件について、とくに規定ある場合のほかは、日本の司法権に服する者はすべて証人として出頭・宣誓・供述すべき公法上の義務があり、その拒否に対しては制裁を科せられ、また宣誓をしたにもかかわらず虚偽の供述をしたときは、偽証罪として処罰される。ただし、同法第196条、197条所定の公務上あるいは職業上の秘密に関する事項および証人またはその親族等の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するときは、証人は証言を拒める。これらの人には証言拒絶権が認められている。
[内田武吉・加藤哲夫]
国会の各議院もしくは普通地方公共団体の議会が、議案その他の審査または調査のため、必要あるとき、強制的に出頭させ証言させる人をいう(日本国憲法62条、衆議院規則53条、257条、参議院規則182条、地方自治法100条)。明治憲法の時代は、各議院は人民を召喚することができなかった(議院法73条)ので、調査権はきわめて弱かった。
それにひきかえ日本国憲法においては、国政調査権強化のために、各議院に裁判所に準ずる証人出頭要求権などが与えられ(憲法62条)、その実施のための細目として証人喚問の手続を定めた「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(議院証言法)」が制定された。それによれば、各議院から証人として出頭を求められればそれに応ずることが義務とされ(1条)、宣誓した証人が虚偽の陳述をすれば3か月以上10年以下の懲役に(6条)、理由なく出頭せず、または宣誓・証言を拒んだときは1年以下の禁錮または10万円以下の罰金に処せられる(7条)。ただし公務員について職務上の秘密に関して証言を求められたときは、行政庁の承認が必要とされる(5条)。このような調査のための証人出頭要求権は、普通地方公共団体の議会についても定められており、不出頭・証言拒絶に対しては6か月以下の禁錮または10万円以下の罰金に処せられることになっている(地方自治法100条)。
[池田政章]
裁判所その他の国家機関に対し自己の経験により知ることのできた事実を供述する第三者。その供述が〈証言〉である。裁判所で証言する証人の資格,権利・義務,尋問方法等は,民事訴訟法・刑事訴訟法に定められている。このほか国会の両議院はその国政調査権に基づき証人を喚問して証言を求めることができる(憲法62条,衆議院規則53,54,257条,参議院規則182~185条,議院証言法)。また地方議会にも類似の制度がある(地方自治法100条)。証人は過去にみずから体験した事がら(たとえば某月某日午後9時ごろAが犯行現場から走り去るのを見た)を供述する者であるから他人には代えがたく,この点で特別の学識経験に基づいて一定の経験法則やこれを適用して得た自己の判断・意見(たとえば,焼跡から発見された死体を観察して殺害後焼かれたものと判断する)を述べる〈鑑定人〉(鑑定)と区別される。なお特別の学識経験をもつために知ることのできた過去の事実につき供述する者を〈鑑定証人〉という(たとえば,被害者を診察した医師がその病状・原因等を述べる場合)。鑑定証人は証人として扱われる(民事訴訟法217条,刑事訴訟法174条)。
日本の司法権に服する者はすべて証人として出頭,宣誓,供述する義務を負う。もっとも民事訴訟においては,訴訟の当事者については証人という形式をとらず,これに代えて当事者尋問の制度がある(民事訴訟法207条)。刑事訴訟においても被告人は証人とすることができない。英米法系の刑事訴訟では被告人も証人となりうるし,また証人としてのみ供述できるとされているが,日本では被告人が任意に供述する場合に限り,〈被告人質問〉を行うこととなっている(刑事訴訟法311条)。このほか民・刑事を通じて,公務員または公務員であった者に対し職務上の秘密に関する事項につき尋問する場合には監督官庁の承諾を要するとされている(民事訴訟法191条,刑事訴訟法144条,145条)。
証人としての義務は司法にとって重大なものであるから,証人が正当な事由がないのに出頭しないときは,勾引されたり(民事訴訟法194条,刑事訴訟法152条),また行政上の強制としての過料(民事訴訟法192条,刑事訴訟法150条),さらに刑罰として罰金・拘留(民事訴訟法193条,刑事訴訟法151条)等の制裁を受ける。出頭した証人は宣誓して証言しなければならない(民事訴訟法201条1項,刑事訴訟法154条。例外は民事訴訟法201条2~4項,刑事訴訟法155条)。そしてこれを拒絶した場合はやはり過料,刑罰の制裁を受ける(民事訴訟法201条5項,刑事訴訟法160,161条)。また宣誓のうえで虚偽の供述をすれば〈偽証罪〉として処罰される(刑法169条)。ただし証人は,自己または近親者が刑事訴追や有罪判決を受けるおそれがある証言,弁護士・医師等について,その業務上知りえた他人の秘密に関する証言等,法の定める一定の事項については証言を拒むことができる。これを〈証言拒絶権〉という(民事訴訟法196条,197条,刑事訴訟法146~149条)。また証人は旅費・日当および宿泊料を請求することができる(〈民事訴訟費用等に関する法律〉18条,刑事訴訟法164条)。なお刑事事件の証人に関しては,その出頭を確保し証言が不当な影響を受けないようにするため〈証人威迫罪〉(刑法105条の2)が設けられるとともに,証人が他人から身体または生命に危害を加えられた場合,国が給付を行うことを定めた〈証人等の被害についての給付に関する法律〉が制定されている。
証人に対しては,まず裁判長が人違いでないかどうかを確かめるための〈人定尋問〉を行い,宣誓をさせ,偽証の罰があることを警告する。尋問は,民・刑事とも証人の取調べを請求した当事者が初めに〈主尋問〉を行い,続いて相手方当事者が〈反対尋問〉を行うという〈交互尋問〉の方式を採るのが通常である(民事訴訟法202条。刑事訴訟法304条では裁判所がまず尋問を行うものとされているが,実際は交互尋問が原則となっており,その方式が刑事訴訟規則199条の2以下に詳しく定められている)。なお裁判長は随時介入してみずから尋問することもできる(刑事訴訟規則201条)。
尋問はできるだけ個別的・具体的に行わなければならないので,通常一問一答の形で進められることになる。この際に,威嚇的・侮辱的な尋問,重複する尋問,証人の意見を求め議論にわたる尋問,証人の経験外の事がらに関する尋問等は原則として許されない(民事訴訟規則115条,刑事訴訟規則199条の13)。なお,証人は個別に尋問するのが原則であるが,複数の証人を在廷させて同時に尋問する〈対質〉を行うこともできる(刑事訴訟規則124条)。
→参考人 →証拠 →証人審問権 →誘導尋問
執筆者:酒巻 匡
(1)江戸時代の金銭債務および明治初年の金穀債務における保証人を意味した語。奈良時代以来保証人には,債務者が逃亡しないことを保証し,逃亡もしくは死亡の場合に代償する〈保人〉系統のものと,債務者が債務を弁済しない場合に債務者に代わって弁償する〈償人〉系統のものとの2種類があった。江戸時代の証人は,初めは当然に償人的義務を負い,ただ債務証書に,債務者が死亡もしくは失踪した場合につき,証人が責任を負うとの文言(死失文言)が記されている場合に限り,保人的義務を負うものとされた。しかし1704年(宝永1)の評定所一座の取決め以後,証人は死失文言の有無にかかわらず,債務者がその債務を弁済しない場合はもちろん,その死亡失踪の場合にも責任を負うべきものとされ,両系統の保証人が一本化した。なお証人の語は江戸の奉行所で用いられ,京都,大坂の町奉行所ではこれを請人と称し,証人は原則として単なる証明人とみなされた。しかし大坂の請人は江戸の証人と若干異なる面もあったようである。
1873年の太政官布告195号(金穀貸借請人証人弁償規則)は,再び保人系統の保証人と償人系統の保証人とを区別し,それぞれ債務証書に書かれた文言に応じた義務を負うものとした。しかし翌々年太政官布告102号によってこの規則は改正され,保証文言の有無やその内容にかかわらず,証書に証人もしくは請人と記載されたものは,借主の返済が滞り,借主を身代限に処してもなお不足する場合,および借主が逃亡死亡し相続人がない場合の両方につき,債務を負うものとされた。すなわち江戸時代中期以降の両系統融合の保証制度への復帰が行われた。ただし明治の両布告は保証債務が相続人に及ぶとしており,これは保証人の義務は1代限りという,遅くとも江戸時代後期には確立していた原則を変更するものであった。
→請人(うけにん)
(2)江戸時代に諸大名が忠誠のあかしとして幕府へ差し出した人質をいう。盟約,降服を保証するため人質を取ることは,とくに戦国期に頻繁に行われたが,江戸時代の証人はそのなごりである。それは諸侯がその子,孫,親,兄弟などの親族や,重臣の子弟を人質として幕府に差し出すもので,関ヶ原の戦に先だつ1599年(慶長4)から1600年にかけて,前田利長,藤堂高虎,堀秀治,細川忠興らが,その母,弟,叔父,子,重臣の子弟等を江戸に送ったのに始まり,諸大名がこれに倣うようになったのである。これらの証人は江戸城内の証人屋敷などに置かれた。なおこのほか,大名の妻子は江戸在住を義務づけられており,これまた事実上の人質であって,広くこれら妻子をも証人と称する場合もある。太平が続き人質の必要性が薄れたため,4代将軍徳川家綱の1665年(寛文5)通常の証人制は廃止されたが,大名妻子の江戸居住義務は,幕末の1862年(文久2)まで存続した。
執筆者:林 由紀子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
字通「証」の項目を見る。
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江戸時代,諸大名が幕府に差しだした人質。幕府は,諸大名を統制する目的から妻子の江戸居住を義務づけたが,江戸前期には大名重臣の子弟をも人質として差しださせ,これを大名藩邸内の屋敷において監督した。後者は狭義の証人(家中証人制)であり,1665年(寛文5)廃止された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…初期には将軍が江戸城を離れることも多かったので,その地位も重く,元老級の譜代の老臣を〈大留守居〉に任命し,将軍留守中は江戸城守衛の総指揮権を与え,平時も老臣の一員として政務を担当させることもあった。また初期には諸大名が人質として幕府に登録し,江戸藩邸に常住させた〈証人〉の身柄を管理するのも重要任務であった。さらに1635年(寛永12)からは金銀収納の役も加わった。…
※「証人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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