人造肉(読み)じんぞうにく

改訂新版 世界大百科事典 「人造肉」の意味・わかりやすい解説

人造肉 (じんぞうにく)

植物などを原料として肉様に加工した食品。土地を用いず,工業の力で水や空気から食料を製造することは人類の長い間の夢であった。とくに,先進工業国の多くは自国で必要とする食料を自給できず,輸入に頼ることが多く,つねに技術開発の対象となってきた。この試みは,2回の世界大戦の主役となったドイツにおいて大きな発展を見た。すなわち,第1次世界大戦の直前に,空気中の窒素を固定しアンモニアにする技術が開発され,第2次世界大戦時には,このアンモニアと廃物であった廃糖蜜に酵母を殖やし,微生物タンパクを得る技術が開発され,人造肉の原料となるタンパク質の製造の目途が開けた。第2次大戦後の生活水準の向上は食生活における畜肉の消費の増大をもたらしたが,それに伴い飼料の大幅な供給増が必要となった。家畜は摂取した飼料のエネルギーの1/8~1/6しか畜産物として提供できない。そこで,肉と同じ食感をもった人造肉の開発が急速に進められた。研究は原料に植物を用いるものと微生物タンパクを用いるものの二つの方向で進められた。前者は植物タンパクと呼ばれ,すでに多くの実績がある。原料の植物としてはコムギダイズが用いられる。コムギではタンパク質含量が少なくてパンの製造には利用できない薄力(はくりき)粉が原料として用いられ,ダイズでは油をとった後の脱脂ダイズが用いられる。原料からタンパク質を分離し,これに水を加えた状態で加熱加圧し,次いで強い物理的力を与えると得られる。そのために押出し機(エクストルーダー)という新しい機械が開発された。こうしてできた製品は,肉状組織をもち,組織タンパクと呼ばれる。別の製法は,分離したタンパク質をアルカリ性の溶液に溶かし,これを小さい穴から酸性の溶液中に引き出す。すると糸状のタンパク質が得られ,これをたばねて肉状の組織とするものである。この製品は繊維タンパクと呼ばれる。組織タンパク,繊維タンパクとも,そのまま食品とすることはなく,従来の食品であるハンバーグステーキやシューマイ,ギョーザの畜肉に置き換えて用いられる。日本では1995年に約7万tの植物タンパクが生産されている。いっぽう,微生物タンパクは,無機質の原料に酵母あるいは細菌,糸状菌を殖やしたもので,増殖した微生物菌体のタンパク質を利用する。1960年代には,無機質原料として石油から得られるノルマルパラフィンを用いて開発が行われたが,消費者賛意が得られなかったことなどにより中断した。
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百科事典マイペディア 「人造肉」の意味・わかりやすい解説

人造肉【じんぞうにく】

動物質以外の原料からつくられた,肉に似た味・舌ざわり・栄養等をもつ加工食品。ダイズ,コムギ等のタンパク質をアルカリ処理して液状とし噴出させて繊維状としたものなどがあり,歯ごたえは肉に似ている。これに色素,調味料,香料,結着剤等を加えて加工,肉類に似た形に仕上げる。多くはハム,ソーセージ,かまぼこ等に混入使用され,栄養価がありコレステロールを含まないことから病人食等によい。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人造肉」の意味・わかりやすい解説

人造肉
じんぞうにく
artificial meat

脱脂大豆から抽出された大豆蛋白や,微生物の生産する蛋白質を加工して組織状としたもの。そのまま食用とするのでなく,ソーセージやかまぼこに混入される場合が多い。石油成分を用いて培養した微生物の蛋白質の利用も研究されているが,食用としては安全性の検討が残されている。

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