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人間環境宣言 にんげんかんきょうせんげん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

人間環境宣言
にんげんかんきょうせんげん

人間を取巻く環境の健全な維持を求めて発せられた宣言。 1972年6月ストックホルムで開催された国連人間環境会議で採択された。人間は科学技術の進歩により,環境を変革する力を獲得したが,それを賢明に用いなければ,それがはかりしれない害を及ぼすことを十分に認識して,この歴史的転回点で,自然と協調しながら,すべてのレベルでの責任をまっとうし,人間環境の保全と改善を目指して努力することが要請されている。宣言採択の過程で,乱開発,乱獲を戒めようとする工業先進国と,なお産業開発を進めて初めて健全な生活水準に到達することができる発展途上国との間に,資源観,自然観の対立がみられたが,人間と環境との調和必然性と,人間相互の調和が環境保全にとって重要であるとの認識は一致した。

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デジタル大辞泉の解説

にんげんかんきょう‐せんげん〔ニンゲンクワンキヤウ‐〕【人間環境宣言】

1972年、ストックホルムでの国連人間環境会議で採択された宣言。前文7項と26の原則からなり、現在および将来の世代のために人間環境を保全し向上させることなどをうたっている。ストックホルム宣言。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

人間環境宣言
にんげんかんきょうせんげん

1972年6月、スウェーデンのストックホルムで開催された国際連合人間環境会議での宣言。[編集部]

人間環境宣言
にんげんかんきょうせんげん

一九七二年六月・国連人間環境会議
国連人間環境会議は1972年6月5日から16日までストックホルムで開催され、人間環境の保全と向上に関し、世界の人々を励まし、導くため共通の見解と原則が必要であると考え、以下のとおり宣言する。
 1 人は環境の創造物であると同時に、環境の形成者である。環境は人間の生存を支えるとともに、知的、道徳的、社会的、精神的な成長の機会を与えている。地球上での人類の苦難にみちた長い進化の過程で、人は、科学技術の加速度的な進歩により、自らの環境を無数の方法と前例のない規模で変革する力を得る段階に達した。自然のままの環境と人によってつくられた環境は、ともに人間の福祉、基本的人権ひいては、生存権そのものの享受のため基本的に重要である。
 2 人間環境を保護し、改善させることは、世界中の人々の福祉と経済発展に影響を及ぼす主要な課題である。これは、全世界の人々が緊急に望むところであり、すべての政府の義務である。
 3 人は、絶えず経験を生かし、発見、発明、創造および進歩を続けなければならない。今日四囲の環境を変革する人間の力は、賢明に用いるならば、すべての人々に開発の恩恵と生活の質を向上させる機会をもたらすことができる。誤って、または不注意に用いるならば、同じ力は、人間と人間環境に対し計り知れない害をもたらすことにもなる。われわれは地球上の多くの地域において、人工の害が増大しつつあることを知っている。その害とは、水、大気、地球、および生物の危険なレベルに達した汚染、生物圏の生態学的均衡に対する大きな、かつ望ましくない攪乱(かくらん)、かけがえのない資源の破壊と枯渇および人工の環境、とくに生活環境、労働環境における人間の肉体的、精神的、社会的健康に害を与える甚だしい欠陥である。
 4 開発途上国では、環境問題の大部分が低開発から生じている。何百万の人々が十分な食物、衣服、住居、教育、健康、衛生を欠く状態で、人間としての生活を維持する最低水準をはるかに下回る生活を続けている。このため開発途上国は、開発の優先順位と環境の保全、改善の必要性を念頭において、その努力を開発に向けなければならない。同じ目的のため先進工業国は、自らと開発途上国との間の格差を縮めるよう努めなければならない。先進工業国では、環境問題は一般に工業化および技術開発に関連している。
 5 人口の自然増加は、絶えず環境の保全に対し問題を提起しており、この問題を解決するため、適切な政策と措置が十分に講じられなければならない。万物のなかで、人間はもっとも貴重なものである。社会の進歩を推し進め、社会の富をつくりだし、科学技術を発達させ、労働の努力を通じて人間環境をつねに変えてゆくのは人間そのものである。社会の発展、生産および科学技術の進歩とともに、環境を改善する人間の能力は日に日に向上する。
 6 われわれは歴史の転回点に到達した。いまやわれわれは世界中で、環境への影響にいっそうの思慮深い注意を払いながら、行動をしなければならない。無知、無関心であるならば、われわれは、われわれの生命と福祉が依存する地球上の環境に対し、重大かつ取り返しのつかない害を与えることになる。逆に十分な知識と賢明な行動をもってするならば、われわれは、われわれ自身と子孫のため、人類の必要と希望に添った環境で、より良い生活を達成することができる。環境の質の向上と良い生活の創造のための展望は広く開けている。いま必要なものは、熱烈ではあるが冷静な精神と、強烈ではあるが秩序だった作業である。自然の世界で自由を確保するためには、自然と協調して、より良い環境をつくるため知識を活用しなければならない。現在および将来の世代のために人間環境を擁護し向上させることは、人類にとって至上の目標、すなわち平和と、世界的な経済社会発展の基本的かつ確立した目標と相並び、かつ調和を保って追求されるべき目標となった。
 7 この環境上の目標を達成するためには、市民および社会、企業および団体が、すべてのレベルで責任を引き受け、共通な努力を公平に分担することが必要である。あらゆる身分の個人も、すべての分野の組織体も、それぞれの行動の質と量によって、将来の世界の環境を形成することになろう。地方自治体および国の政府は、その管轄の範囲内で大規模な環境政策とその実施に関し最大の責任を負う。この分野で開発途上国が責任を遂行するのを助けるため、財源調達の国際協力も必要とされる。環境問題はいっそう複雑化するであろうが、その広がりにおいて地域的または全地球的なものであり、また共通の国際的領域に影響を及ぼすものであるので、共通の利益のため国家間の広範囲な協力と国際機関による行動が必要となるであろう。国連人間環境会議は、各国政府と国民に対し、人類とその子孫のため、人間環境の保全と改善を目ざして、共通の努力をすることを要請する。
【原則】
 共通の信念を次のとおり表明する。
 1 人は、尊厳と福祉を保つに足る環境で、自由、平等および十分な生活水準を享受する基本的権利を有するとともに、現在および将来の世代のため環境を保護し改善する厳粛な責任を負う。これに関し、アパルトヘイト(人種隔離政策)、人種差別、差別的取扱い、植民地主義その他の圧制および外国支配を促進し、または恒久化する政策は非難され、排除されなければならない。
 2 大気、水、大地、動植物およびとくに自然の生態系の代表的なものを含む地球上の天然資源は、現在および将来の世代のために、注意深い計画と管理により適切に保護されなければならない。
 3 更新できる重要な資源を生み出す地球の能力は維持され、可能な限り、回復または向上されなければならない。
 4 祖先から受け継いできた野生生物とその生息地は、今日種々の有害な要因により重大な危機にさらされており、人はこれを保護し、賢明に管理する特別な責任を負う。野生生物を含む自然の保護は、経済開発の計画立案において重視しなければならない。
 5 地球上の更新できない資源は将来の枯渇の危険に備え、かつ、その使用から生ずる成果がすべての人間に分かち与えられるような方法で、利用されなければならない。
 6 生態系に重大または回復できない損害を与えないため、有害物質その他の物質の排出および熱の放出を、それらを無害にする環境の能力を超えるような量や濃度で行うことは、停止されなければならない。環境汚染に反対するすべての国の人々の正当な闘争は支持されなければならない。
 7 各国は、人間の健康に危険をもたらし、生物資源と海洋生物に害を与え、海洋の快適な環境を損ない、海洋の正当な利用を妨げるような物質による海洋の汚染を防止するため、あらゆる可能な措置をとらなければならない。
 8 経済および社会の開発は、人にとって好ましい生活環境と労働環境の確保に不可欠なものであり、かつ、生活の質の向上に必要な条件を地球上につくりだすために必須(ひっす)のものである。
 9 低開発から起こる環境上の欠陥と自然災害は重大な問題になっているが、これは開発途上国の自らの努力を補うための相当量の資金援助および技術援助の提供と、必要が生じた際の時宜を得た援助で促進された開発により、もっともよく救済することができる。
 10 開発途上国にとって、一次産品および原材料の価格の安定とそれによる十分な収益は環境の管理に不可欠である。生態学的なプロセスと並んで経済的な要素を考慮にいれなければならないからである。
 11 すべての国の環境政策は、開発途上国の現在または将来の開発の可能性を向上させねばならず、その可能性に対して悪影響を及ぼすものであってはならず、すべての人のより良い生活条件の達成を妨げてはならない。また、環境上の措置によってもたらされる国内および国際的な経済的帰結を調整することの合意に達するため、各国および国際機関は適当な措置をとらなければならない。
 12 開発途上国の状態とその特別の必要性を考慮し、開発計画に環境保護を組み入れることから生ずる費用を考慮に入れ、さらに要求があったときは、この目的のための追加的な技術援助および資金援助が必要であることを考慮し、環境の保護向上のため援助が供与されなければならない。
 13 合理的な資源管理を行ない、環境を改善するため、各国は、その開発計画の立案にあたり国民の利益のために人間環境を保護し向上する必要性と開発が両立しうるよう、総合性を保ち、調整をとらなければならない。
 14 合理的な計画は、開発の必要性と環境の保護向上の必要性との間の矛盾を調整する必須の手段である。
 15 居住および都市化の計画は、環境に及ぼす悪影響を回避し、すべての人が最大限の社会的、経済的および環境上の利益を得るよう、立案されなければならない。これに関し、植民地主義者および人種差別主義者による支配のため立案された計画は放棄されなければならない。
 16 政府によって適当と考えられ、基本的人権を害することのない人口政策は、人口増加率もしくは過度の人口集中が環境上もしくは開発上悪影響を及ぼすような地域、または人口の過疎が人間環境の向上と開発を妨げるような地域で、実施されなければならない。
 17 国の適当な機関に、環境の質を向上する目的で、当該国の環境資源につき計画し、管理し、または規制する任務が委(ゆだ)ねられなければならない。
 18 科学技術は、経済・社会の発展への寄与の一環として、人類の共通の利益のため環境の危険を見極め、回避し、制御すること、および環境問題を解決することに利用されなければならない。
 19 環境問題についての若い世代と成人に対する教育は――恵まれない人々に十分に配慮して行うものとし――個人、企業および地域社会が環境を保護向上するよう、その考え方を啓発し、責任ある行動をとるための基盤を拡(ひろ)げるのに必須のものである。
 マス・メディアは、環境悪化に力を貸してはならず、すべての面で、人がその資質を伸ばすことができるよう、環境を保護改善する必要性に関し、教育的な情報を広く提供することが必要である。
 20 国内および国際的な環境問題に関連した科学的研究開発は、すべての国とくに開発途上国において推進されなければならない。これに関連し、最新の科学的情報および経験の自由な交流は、環境問題の解決を促進するため支持され、援助されなければならない。環境に関連した技術は、開発途上国に経済的負担を負わせることなしに、広く普及されることを促進するような条件で提供されなければならない。
 21 各国は、国連憲章および国際法の原則に従い、自国の資源をその環境政策に基づいて開発する主権を有する。各国はまた、自国の管轄権内または支配下の活動が他国の環境または国家の管轄権の範囲を越えた地域の環境に損害を与えないよう措置する責任を負う。
 22 各国は、自国の管轄権内または支配下の活動が、自国の管轄権の外にある地域に及ぼした汚染その他の環境上の損害の被害者に対する責任および補償に関する国際法をさらに発展せしめるよう協力しなければならない。
 23 国際社会において合意されるクライテリアまたは国によって決定されるべき基準に拘泥することなく、すべての場合においてそれぞれの国の価値体系を考慮することが重要である。もっとも進んだ先進国にとって妥当な基準でも開発途上国にとっては、不適当であり、かつ、不当な社会的費用をもたらすことがあり、このような基準の適用の限度についても考慮することが重要である。
 24 環境の保護と改善に関する国際問題は、国の大小を問わず、平等の立場で、協調的な精神により扱わなければならない。多国間取決め、二国間取決めその他の適当な方法による協力は、すべての国の主権と利益に十分な考慮を払いながら、すべての分野における活動から生ずる環境に対する悪影響を予防し、除去し、減少し、効果的に規制するため不可欠である。
 25 各国は、環境の保護と改善のため、国際機関が調整され能率的で力強い役割を果たせるよう、協力しなければならない。
 26 人とその環境は、核兵器その他すべての大量破壊の手段の影響から免れなければならない。各国は、適当な国際的機関において、このような兵器の除去と完全な破棄について、速やかに合意に達するよう努めなければならない。

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世界大百科事典内の人間環境宣言の言及

【環境権】より

…アメリカでは,そのころから環境権の概念が著書や論文の中に登場しはじめ,そのコモン・ロー上ならびに憲法上の根拠について論議がなされるようになった。 その後72年にストックホルムで開催された国連人間環境会議は〈人間環境宣言〉を採択したが,その中の〈原則〉第1項では,〈人は,尊厳と福祉を保つに足る環境で,自由,平等および十分な生活水準を享受する基本的権利を有するとともに,現在および将来の世代のため環境を保護し改善する厳粛な責任を負う〉とし,環境に関する権利と責任とをうたった。日本では,1969年制定の東京都公害防止条例の前文において〈すべて都民は,健康で安全かつ快適な生活を営む権利を有するのであって,この権利は,公害によってみだりに侵されてはならない〉と宣言されたのが,環境権理念の明文化の始まりとされる。…

【国連人間環境会議】より

…この会議に対しては,汚染問題を重視する先進工業国と貧困を克服するため開発に力点を置く開発途上国とでは立脚点やアプローチに差を見せていたが,〈今や我々は世界中で環境への影響にいっそうの思慮深い注意を払いながら行動しなければならない。無知,無関心であるならば,我々は,我々の生命と福祉が依存する地球上の環境に対し,重大かつ取返しのつかない害を与える〉ことになり,その意味で〈歴史の転回点に到達した〉(人間環境宣言)との認識を共通に持つことができ,これが会議を成功裡(り)にまとめる支えとなった。具体的な成果としては,人間環境宣言や行動計画の採択,環境分野の企画調整機関としての国連環境計画(UNEP)の新設(本部はナイロビ)とその運営資金たる環境基金の創設(1973),日本の提案になる世界環境デー(毎年6月5日)の制定,海洋投棄防止条約等の各種条約,協定の締結等がある。…

※「人間環境宣言」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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