ある社会集団の生活内容・生活状況を総合的かつ量的観点からとらえようとする概念。対象となる社会集団としては,通例は家計や世帯を予想しているが,そのほかに国や地方などの地域集団,職業や所得で分類される社会階層が考えられる。また量的観点というとき,生活内容を厳密に測定しうる単一の尺度の存在を必ずしも要求しないが,生活水準測定の主要目標が,それによって生活状態の通時的・共時的比較をすることにあるのだから,なんらかの数量化は避けられない。生活内容としては,より狭く消費生活にかかわる諸条件に限定する場合と,より広く生活のその他の諸側面,たとえば労働条件・雇用機会等の労働環境,医療・年金等の社会保障や教育などの公共サービスの受益可能性,また公害・公園・治安等の生活環境の整備等の諸要素までも含めて考える場合とがある。さらに,個人や世帯ではなく,国や所得階層のような社会集団の生活水準をいうときは,分配の平等度などその集団の内部構造のあり方も生活内容の一部と考えるべきだとする見解もある。
生活水準は,あるべき生活内容を指して規範的意味で使われる場合と,単に生活内容の実態を示す記述的意味で使われる場合とがある。それぞれstandard of living,level of livingに相当する。規範的生活水準は,その社会集団の人々が希求する生活水準であり,文化的・歴史的諸条件に規定され,多分に心理的要素をも含む概念である。したがって,その水準を客観的手続に基づいて測定することは,実態的生活水準に比べてはるかに困難な作業であり,しかもそれを通時的・共時的に比較することにどこまで意味を求めうるかも疑問である。実態的生活水準の測定には,このような原理的ともいえる計測上の困難は認められない。しかし,人々の生活内容は複雑多岐にわたり,きわめて多次元的なものだから,それを単一の指標で表現しようとする試みにはどうしても限界がある。
通常利用される方法は,平均的消費支出金額をもって生活水準の指標とするものである。この方法は,生活内容の基礎的部分を比較的容易かつ客観的に計測しうるという長所を備えている反面,毎年のフローに関心の中心が偏り,ストック(蓄積)の貢献を軽視しがちであること,また,近年とりわけ重要性を増しつつある非市場的消費,すなわち直接的な金銭的支出を伴わずに享受される消費サービスが除外される欠陥を有する。この問題は,医療・教育等の公共サービスを提供する制度が,国ごとにまた時代によって大きく変わるところから,比較を行う際にはとりわけ留意すべきである。これらのサービスに対する政府や地方公共団体による公的支出を私的消費支出に加算したものを指標とすれば,この欠陥はおおよそ回避できる。生産内容のもう一つの重要な構成要素である生活環境は,それ自体としてはある程度数量化が可能としても,それを貨幣的価値に換算することには本来なじまないものである。したがって,消費支出と合算してこれを単一の指標に組み入れることは適切ではない。このような場合,複数個の指標からなる多元的なベクトルを対比させる以外に比較の方法はない。相互比較に伴うその他の困難は,物価水準や表示通貨のちがいを調整して貨幣的指標を実質化する必要のあることである。たとえば国際比較を行う場合に,為替レートが適切な換算率を与えるかについては慎重な検討を要する。
執筆者:時子山 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
暮らし向きの高さと内容が現実にどのようであるかを示す指標・概念。なお、人間らしく生きるために必要とされる物質や条件などを約束し、本来あるべき暮らし向きの高さと内容を示す「生活標準」standard of livingとは区別される。生活水準を計る尺度としては、所得水準、消費水準、1人当り国民所得水準などが用いられるが、それぞれに問題がある。すなわち、生活は個別的であるから、単純な所得の国民的平均だけでなく、地域別、所得階層別、世帯類型別、産業別など、きめ細かくとらえる必要がある。また国際的な比較では、為替(かわせ)率(レート)による換算だけでなく、風土、気候などの自然要因や思想、文化などの社会要因の差も考慮しなければならない。
生活水準を消費水準でとらえる場合、もっとも狭い意味では、家計調査に表れた、ある時点の消費支出の高さ(支出額)と内容(支出の構造)になる。これらに家事労働の投入によって代替される実質的な消費支出や、実物資産、貯蓄などの金融資産を含め、より広い意味でとらえればいっそう確かなものとなる。さらに道路、公園、住宅などの生活環境といった社会資本や、治安状況、社会保障など社会制度からの便益をも含めれば、なおいっそう確かに実態をとらえることができるが、それには測定上むずかしい問題もある。
生活水準についての研究は19世紀からヨーロッパでなされ、とくに低所得労働者の生活研究を意図して行われるようになった家計調査にさかのぼる。ドイツではエンゲルの『ベルギー労働者家族の生活費』(1895)がよく知られているが、その研究のなかで家計に占める食費の割合についての「エンゲルの法則」が定立された。イギリスではロウントリイの『貧困――都市生活の研究』(1901)が有名で、そのなかで「ライフ・サイクル」の概念が形成された。このように生活水準の認識は、貧困の実証的研究としてまず発展してきたが、第二次世界大戦後は「豊かな社会」の到来、さらには環境問題の自覚に伴う持続可能な社会における「生活の質」の指標として、需要―消費分析の手掛りとしても展開をみせている。
[今井光映]
『伊大知良太郎編『生活水準』(1964・春秋社)』▽『今井光映・堀田剛吉編『家政経済学』(1973・朝倉書店)』▽『伊藤秋子著『生活水準』(1977・光生館)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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