日本大百科全書(ニッポニカ) 「運動能力」の意味・わかりやすい解説
運動能力
うんどうのうりょく
運動やスポーツはもとより、広く日常生活を営むためにも必要な身体の基本的な活動能力。しばしば「体力」と混同または並列して使用されることばであるが、体力という場合は筋力、持久力、柔軟性、敏捷(びんしょう)性など、それらを発揮する際のスキル(技術)をできるだけ排除した形でとらえた生体の機能を意味し、運動能力という場合は、走、跳、投といった、体力に運動やスポーツに必要な基本的なスキルを加味した能力を意味する。
文部科学省では、文部省時代の1964年(昭和39)以来、国民の体力・運動能力の現状を明らかにし、その結果を国民の体力づくり、健康の保持・増進に資するとともに、体育・スポーツ活動の指導と行政上の基礎資料を得る目的で、体力・運動能力調査を実施している(2015年(平成27)10月からはスポーツ庁が担当)。対象年齢区分やテスト項目を見直して、1999年度(平成11)から実施されている新体力テストの具体的な測定項目をみると、対象年齢によりその組合せなどは少しずつ異なるが、次のようなものがある。
(1)筋力の指標として握力
(2)筋力・筋持久力の指標として上体起こし
(3)柔軟性の指標として長座体前屈(以上の三つは全年齢層共通)
(4)敏捷性の指標として反復横跳び
(5)全身持久性の指標として20メートルのシャトルラン(往復持久走)、または1500メートル(男性)、1000メートル(女性)の持久走または急歩(左右いずれかの足がつねに地面に着いているようにして急いで歩くこと)
(6)スピードと走能力の指標として50メートル走
(7)筋パワー(瞬発力)および跳能力の指標として立幅跳び
(8)筋パワーおよび投能力の指標としてソフトボール投げまたはハンドボール投げ
高齢者(65~79歳)のみを対象とする測定項目としては、ADL(Activities of Daily Livingの略、日常の生活動作能力についてのアンケート調査)、バランス能力の指標として開眼片足立ち、歩行の敏捷性の指標とする10メートル障害物歩行、歩行の持久性の指標とする6分間歩行が採用されている。
以上、スポーツ庁の新体力テストに採用されている測定項目をみると、ボール投げ、立幅跳び、50メートル走などは明らかに運動能力を測定している項目といえるであろうし、握力や長座体前屈などは、比較的体力要素を純粋に測定している項目といえる。ただし、そのほかの項目については、どこまでが体力要素で、どこまでが運動能力の要素であるかを単純には区別しがたい。
[塚越克己]
『日本体育協会スポーツ科学委員会編『体力テストガイドブック』(1986・ぎょうせい)』▽『文部省編『新体力テスト――有意義な活用のために』(2000・ぎょうせい)』