改訂新版 世界大百科事典 「アマツバメ」の意味・わかりやすい解説
アマツバメ (雨燕)
white-rumped swift
Apus pacificus
アマツバメ目アマツバメ科の鳥で,日本のアマツバメ類の中ではもっとも多い普通種。東アジアの温帯,亜寒帯で繁殖し,東南アジアからオーストラリアにかけて越冬する。日本ではツバメよりやや遅れて4月中旬~5月上旬に渡来し,9月中旬~11月下旬に渡去する夏鳥で,九州から北海道までの各地の山岳部の岩の露出した垂直な崖地や海岸の洞窟で集団繁殖する。渡りの途中では平野部の畑地や市街地の上空にも現れるが,晴天のときはツバメのように低空を飛ぶことはない。しかし,曇天や雨天では林のこずえ近くまでおりてくるので,人目につくようになる。このため雨ツバメの名がある。全長約19cm,全身黒褐色で腰が白く,のども白っぽい。体型は細長くスマートである。とくに翼は鎌状に長大で,飛翔(ひしよう)時には特徴ある三日月形の翼型を示す。尾は長めで燕尾状だが切れこみは深くない。くちばしは短く扁平で,口は開くと大きい。脚も非常に短く,あしゆびは4本とも前方を向く。握力が強くつめも鋭いので,壁などの小さな足がかりに垂直に張りつくことができる。そのかわり電線にとまったり地上におりたりはできない。生活のほとんどを空中で過ごし,飛行速度はツバメを上回る。高空で小昆虫を捕食し,夜間も飛びながら睡眠をとるものがあるらしい。チュリーッと鋭く鳴く。崖の割れ目に空中に浮遊している枯草や羽毛を集め唾液で張り合わせて粗末な巣をつくる。卵は白色無地で細長く,1腹2~3卵,雌雄交替で3週間抱卵する。育雛(いくすう)は空中昆虫が多いか少ないかで遅速が生じ,早ければ4週,遅いと6週を要する。
アマツバメ目は,アマツバメ亜目とハチドリ亜目に分かれ,前亜目にはアマツバメ科とカンムリアマツバメ科が含まれる。アマツバメ科の鳥は形態,生態ともツバメ類に似ているが,両者は系統を異にし,類縁関係はむしろ離れている。熱帯地方を中心にほぼ全世界に分布する。鳥類中でもっとも空中生活に適応し,ハリオアマツバメ類の大型種は鳥類中で最高の飛翔速度をもつといわれる(一説には日本のハリオアマツバメで200km/h)。すべて鎌状の長い翼と黒色系のじみな体色をもち,巣づくりにそれぞれ特徴がある。世界にはヨーロッパアマツバメなど約70種,日本には,アマツバメのほかにヒメアマツバメとハリオアマツバメを産する。ヒメアマツバメA.affinisは,アジア南部からアフリカ全域にかけて広く分布する。日本では1965年前後に東海地方に留鳥としてすむものが現れ,現在では沖縄本島から本州中部まで生息している。全長約14cm。アマツバメに酷似するがそれより小型で,尾の切れこみはずっと浅い。アマツバメと異なり,市街地の建造物に好んで営巣し,しばしばコシアカツバメの巣を横どりする。
ハリオアマツバメChaetura caudacutaは,アジア中部とヒマラヤからミャンマーにかけての地域に分布し,アジア中部のものは東南アジアからオーストラリアで越冬する。日本では夏鳥で,本州中部以北で繁殖する。全長約21cmで同科の鳥としては大型。全身黒褐色だが,背面は淡く,のどと下尾筒は白い。アマツバメよりずんぐりして重量感がある。尾は短い角尾で,各羽軸の先端が針状に突出するのでこの名がある。森林地帯の上空に生息するが,アマツバメより低空域へ現れることが多い。樹洞内に植物片を唾液で張りつけた巣をつくる。
カンムリアマツバメ科は,インドからソロモン諸島にかけて3種が分布する。カンムリアマツバメHemiprocne coronataは全長約23cm,上面灰色で下面白色,雄は顔に栗色横帯がある。額に逆立った冠羽が目だち,深い燕尾をもつ。疎林周辺にすみ枝によくとまる。横枝に羽や樹皮を唾液で固めた直径3cmほどの小巣をつくり,産卵は1個,枝にとまって巣ごとかかえて抱卵する。
執筆者:内田 康夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報