作業船(読み)さぎょうせん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「作業船」の意味・わかりやすい解説

作業船
さぎょうせん

河川、海岸、港湾工事および海洋土木工事などに使用する工事用船舶の総称。海洋の利用が順次沖合いの海域へ広げられるにつれて海上工事の対象分野も順次拡大され、使用される作業船も大型化、多様化の傾向が著しい。

[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]

浚渫埋立て工事用作業船

浚渫(しゅんせつ)船は、航路泊地の浚渫や港湾・河川工事などにおける構造物の床掘り、海底土砂採取などに使用される。浚渫船の形式は、搭載する掘削装置によってポンプ式浚渫船、バケット式浚渫船、ディッパー式浚渫船、グラブ式浚渫船に大別され、それぞれ非航式と自航式のものがある。これらの浚渫船は一般に水深30メートル程度までの比較的平穏な海域での施工を対象としているが、近年浚渫可能深度数十メートル以上の大型浚渫船も建造されている。また、特殊用途のものでは、海底の岩盤を破砕する砕岩船や、堆積(たいせき)汚泥の除去・回収に用いる汚泥浚渫船などがある。

 海上における浚渫、掘削土砂運搬、捨土(すてど)といった一連の作業は、各種浚渫船と土運船、引き船(押し船)、揚土装置をもつリクレーマー船などを作業条件に応じて組み合わせ、作業船団を構成して行われる。

[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]

構造物工事用作業船

クレーン船起重機船ともいう)、杭(くい)打ち船、地盤改良船、コンクリートプラント船などがおもなものである。これらの作業船は、いずれも陸上の建設機械と同様な機能の各種作業装置・設備を台船上に搭載したもので、海上では陸上のように道路交通上の制約がないことから、近年の工事規模の拡大に伴いきわめて大型・大容量のものが稼動している。クレーン船では吊(つ)り上げ能力3000トン、杭打ち船では大径長尺杭打設用にラムram(打撃体)重量20~30トン級以上の超大型杭打ちハンマーを装備したものがある。地盤改良船では多連式大容量の専用作業船が多数稼動しており、コンクリート製造プラントを搭載した排水量1万トン以上の作業船も使用されている。

 海底油田掘削用のプラットホームが海洋土木工事にも応用され、沖合いの気象・海象条件の厳しい場所の建設工事などに用いられている。代表的なものは自己昇降式作業台船(SEP)とよばれるもので、昇降式の脚をもち、作業時は脚によって自立し、プラットホームは波浪の届かない高さまでジャッキアップして保持される機構である。沖合い地点のシーバース建設工事、海峡横断橋の建設工事などで作業足場として威力を発揮する。このほか、特殊用途のものに、海底パイプラインケーブル敷設船、河海底に設ける沈埋(ちんまい)トンネル工事専用の作業船などがあり、船舶形式以外のものでは遠隔操作式の海底土木工事用ロボットの開発も進められている。

 海上工事以外の作業を目的とする船、たとえば測量船砕氷船海難救助船消防船なども作業船に分類される。

[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]


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改訂新版 世界大百科事典 「作業船」の意味・わかりやすい解説

作業船 (さぎょうせん)

海上または海中作業を行う建設機械や観測機材を搭載し,港湾工事や海洋土木工事に用いられる船。一般に工事用作業船と海洋環境整備用作業船に分けられるが,海上石油掘削用リグ,パイプ敷設船,海上作業支援船を含めることもある。

 航路や泊地の浚渫(しゆんせつ)埋立てを行う作業船には,各種型式の浚渫船や砕岩船,リクレーマー船があり,作業場所の土質,土量や地形によって使い分けられる。

 防波堤岸壁などの構造物工事用作業船のうち,クレーン船(起重機船)は,デッキクレーンやウィンチを装備し,重量物の運搬や据付作業に供せられる。杭打船は甲板上にタワー(櫓)を設け,直径1~2m,長さ約40mくらいの杭をディーゼルハンマー蒸気ハンマーなどの杭打機により海底に打ち込むことができる船で,護岸工事などにおけるコンクリート杭鋼矢板などの打込みに用いられる。タワーは前後に傾斜でき,斜め打ちも可能である。護岸工事などにおいて海底が軟弱な場合に基礎地盤を改良するために,サンドドレーン船や深層混合処理船などの軟弱地盤改良船が用いられる。前者は,砂を詰めた鋼管を海底に打ち込んだ後鋼管のみを引き抜き,地中に砂杭(サンドパイル)を残して地盤の改良を行う。後者は,セメントや石灰などの硬化剤を直接海底地盤に混入かくはんして,地盤を化学的に硬化させ地盤改良を行う船であり,海底下40mくらいの深さまで作業できる。コンクリートプラント船は,甲板上にコンクリートミキサー,セメントサイロなどをもち,現場でコンクリートを自動的に打設するもので,同様のものにモルタルプラント船がある。作業台船は,作業の内容に応じて必要な機械類を搭載して作業を行う船で,とくに自己昇降式作業台船はSEP(self elevating platformの略)と呼ばれ,昇降可能な脚によって着底し,作業台本体を海面上にもち上げ,高波浪域での作業を容易にかつ精度よく行うことができる。

 押船(プッシャー)は,船首部を艀(はしけ)(バージ)の船尾にはまり込ませ,ロープなどによりバージを連結し押航するもの,引船(タグボート)は,他船を曳引する船で,いずれも低速で大きな推力を得るようコルトノズル推進を採用することが多く,操船性能に優れている。

 測量船は音響測深機や船位測定装置などを搭載し,海域の深浅測量を行う。双胴船形式が多い。磁気探査船は,海底に埋没している機雷などの磁性物体を磁気センサーなどにより探査する船で,船体には強化プラスチックなどの非磁性材料が用いられる。

 油回収船は,海面に浮遊する油をとり込み,甲板上の油水分離装置により油分を分離回収するもの,海面清掃船やごみ処理船などは,ごみ回収用のネットコンベヤやバケットなどにより,海面に浮遊するごみを回収する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「作業船」の意味・わかりやすい解説

作業船
さぎょうせん
working ship

海上あるいは内陸の河川,湖沼,運河などでいろいろな特殊作業に従事する船で,その用途に適するように設計,建造されている。浚渫船,起重機船,ケーブル敷設船,砕氷船,消防船,タグボート (引船) ,プッシャーボート (押船) ,クレーン船,採金船,採岩船などを総括していう。

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