日本大百科全書(ニッポニカ) 「価値心理学」の意味・わかりやすい解説
価値心理学
かちしんりがく
psychology of values
心理学における価値とは、「一定の事物の優越度、重要度などを、主観的に評価した値」である。感覚が外界認識の出発点であるのに対して、感情が価値の出発点とみなされる。哲学における価値は真・善・美のように普遍妥当性をもつと想定されるが、心理学ではより相対主義的に、個人・社会・文化によって差異相があることを許容する。
ドイツの哲学者シュプランガーは『文化と性格の類型論』(1930)において、理論・経済・権力・社会・美・宗教の6種の価値領域のいずれを志向し、行動の基準とするかによって、その人の性格が理解できる、その他の活動、たとえば技術・教育・法律などは、これらの価値の組合せによって説明できる、と主張した。そして、特定の人の志向する価値領域は、直観的把握、了解Verstehenされるものと考えた。
基本的にはこの立場を踏襲しながらアメリカの心理学者G・W・オールポートたちは、特定人物の価値観を定量的に把握するための質問紙調査票をつくった。これを価値研究尺度という。以後の価値心理学と題する研究の大部分は、この調査票を用いて、たとえば男性は理論・経済・権力、女性は残り3領域を志向する傾向が強いとか、同一の文化所産たとえば絵画・書籍などに接しても、ドイツ人は理論、アメリカ人は経済、フランス人は美の立場から判断することが多い、それが諸国民の国民性の一端である、と報告する。現代における価値の混乱とは、これらのどの領域にも他を圧倒的に支配するものが失われた状況をさす。
[吉田正昭]
『吉田正昭著『価値の心理学的研究』(1967・日本心理学会)』