日本大百科全書(ニッポニカ) 「保健学」の意味・わかりやすい解説
保健学
ほけんがく
health sciences
健康を守り高めるための学問ならびに実践体系をいう。その内容としては、人間を環境のなかで生活するものとして理解し、その生活要因としての環境の解明と、互いに交錯する両者の関連性を健康を守る観点から総合的に把握し、健康を守り高めるための生物的、社会的諸原則を解明することである。さらには、それらの知識に基づいていろいろな生活条件下にある人々に、より健康な生活をもたらすような方法を開発していくことでもある。このためには、きわめて広範で包括的な領域の知識や協力が必要であり、その範囲は臨床医学、基礎医学、心理学、社会学をはじめ、自然科学、人文科学にまで及ぶことになる。したがって、保健学のなかでの分科も多岐にわたっている。一例として東京大学医学部保健学科(現健康科学・看護学専攻科)の講座構成をみると、人類生態学、保健社会学、保健管理学、保健栄養学、疫学(えきがく)、母子保健学、成人保健学、精神衛生学、看護学となっている。また、保健学を活動対象別にみると、学校保健、産業保健、環境保健、歯科保健、保健経済、保健法学、国際保健といった多くの分野に分けられる。保健学とほぼ同じ範囲を占める、すなわち近い学問分野ないし活動としてあげられるものに公衆衛生がある。なお、保健と同義語として慣用的に衛生が用いられてきているが(たとえば母子保健と母子衛生は同義に用いられる)、近年は、健康増進だけでなく、さらに広い活動のニュアンスをもつ保健の語が、衛生にかわって使われることが多くなっている。
[平山宗宏]
『伊東義一、塚田浩治編『保健学』(1981・学術図書出版社)』