改訂新版 世界大百科事典 「偽りの花園」の意味・わかりやすい解説
偽りの花園 (いつわりのはなぞの)
The Little Foxes
アメリカ映画。ウィリアム・ワイラー監督。1941年製作。原作・脚本はリリアン・ヘルマン。南部の小都市を舞台に資産家一族のエゴイズムの葛藤を描く1939年のブロードウェーのヒット劇《小狐たち》の映画化である。ハリウッドの名プロデューサー,サミュエル・ゴールドウィンのもとで仕事をした《この三人》(1936)から,《我等の生涯の最良の年》(1946)に至る10年がワイラーのキャリアの最良の10年といわれているが,〈ワイラー・ルック〉と呼ばれることになるそのスタイルが,もっとも顕著に現れた作品である。とくにヒロインのベティ・デービスが,夫のハーバート・マーシャルを冷然と見殺しにするシーンは,〈人物を縦の構図に入れこんだ〉(アンドレ・バザン),焦点深度の深いいわゆる〈パン・フォーカス〉撮影の一つの頂点として映画史に残る名場面となった。この作品の前に,すでにオーソン・ウェルズ監督の《市民ケーン》(1941)において画期的な〈パン・フォーカス〉撮影を試みた名カメラマン,グレッグ・トーランド(ワイラーとは《白蛾》(1934)から《我等の生涯の最良の年》に至る名コンビである)が撮影を担当した。ヘルマンは出世作《子供の時間》(1934初演)が映画化される際,ゴールドウィンの依頼でみずからシナリオを書き,次いでシドニー・キングスレーの舞台劇《デッド・エンド》,そして《小狐たち》を脚色。3作ともワイラーが監督している(《子供の時間》は《この三人》の題で映画化され,さらに61年に同じワイラー監督でリメークされた。邦題《噂の二人》)。《小狐たち》の続編(同じ登場人物の若き日を描く戯曲)《森の他の部分》(1946)も,マイケル・ゴードン監督により48年に映画化されている。また,《黒蘭の女》(1938),《月光の女》(1940)に続いて,ワイラーがベティ・デービスに冷酷なヒロインを演じさせ,彼女の〈悪女〉のイメージを決定的にした作品でもある。
執筆者:宇田川 幸洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報