傷ホルモン(読み)キズホルモン(英語表記)wound hormone

デジタル大辞泉 「傷ホルモン」の意味・読み・例文・類語

きず‐ホルモン【傷ホルモン】

植物体に傷がついたときに、その傷口細胞から分泌され、新しい細胞の生長増殖を促すホルモン性の物質

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精選版 日本国語大辞典 「傷ホルモン」の意味・読み・例文・類語

きず‐ホルモン【傷ホルモン】

  1. 〘 名詞 〙 ( ホルモンは[ドイツ語] Hormon ) 生物組織が傷を受けたとき、傷口の細胞から分泌されるホルモン性物質の総称。傷を回復するために他の細胞の生長、増殖を促すとされる。植物に多くみられる。傷害ホルモン。ネクロホルモン。

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改訂新版 世界大百科事典 「傷ホルモン」の意味・わかりやすい解説

傷ホルモン (きずホルモン)
wound hormone

癒傷ホルモン,傷害ホルモンともいう。植物の場合はトラウマチンtraumatinと同義。traumaは外傷というギリシア語に由来する。元来は,植物または動物体の一群の細胞が破壊されたときに分泌され,他の細胞の分裂や生長を促すと考えられるホルモン性の物質をいった。

 植物では1892年にウィーズナーJ.Wiesnerがこのようなホルモンがあることを想定したが,実験的な証拠を示したのは1921年以降のハーバーラントG.Haberlandtらによる研究である。彼らは,傷ついた部位細胞分裂を引き起こす物質は2種類あり,傷ついた細胞自身からくるもの(傷ホルモン)と維管束からくるもの(レプトホルモンleptohormone)とがあるという。

 1927年にハーバーラントの弟子ウェーネルトB.Wehneltが,インゲンマメの未熟な果実の莢(さや)から種子を取り去り,莢の内側に試料液を塗るとそこが盛り上がってくる反応で,このホルモンを生物学的に定量する方法をみつけて以来,物質を分離,同定する研究が急速に進んだ。この方法を使ってアメリカのイングリッシュJ.Englishらはこのときの材料として使われる莢自身に傷ホルモンが存在することを見いだし,39年にその物質を結晶として単離し,トラウマチン酸traumatic acid(⊿1-decene-1,10-dicarboxylic acid,HOOC-CH=CH-(CH28-COOH)と同定した。その作用はグルタミン酸リン酸ショ糖によって促進されるが,傷を受けた際に細胞分裂を引き起こす以外の効果はなく,組織培養条件下において細胞分裂を引き起こすことはない。

 しかし,その後この物質以外には傷ホルモンとして単離されたものはなく,他の植物での実体はなお不明である。現在では,傷ホルモンは単一の物質ではなく,細胞が傷つけられることにより,細胞内の物質の分解などにより傷ホルモン的な作用をもつ多種類の物質が生じるものと考えられ,植物の種類によって傷ホルモンの種類が異なるものと思われている。なお動物についても同様の現象がみられるが,現在では傷ホルモンの語を用いることはない。
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世界大百科事典(旧版)内の傷ホルモンの言及

【カルス】より

…そのため,組織の分化などの研究材料として利用されることも多い。 カルスを最初に研究したハーバーラントは,傷をうけたことによって傷ホルモンtraumatinができ,これに誘起されて細胞分裂がおこる結果カルスが形成されると説明した。カルスの誘導については,オーキシン類やサイトカイニンのような植物ホルモンが何らかの関与をしており,特に前者が必須であることが知られている。…

※「傷ホルモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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