農業のみを営む専業農家に対して、自営農業以外に世帯員のうちだれかが他の業をあわせ営む農家をいう。わが国では農家の全世帯員を単位として定義されるが、欧米諸国では農業経営主の兼業従事の有無により規定されることが多い。わが国ではさらに、兼業農家をその収入源からみて、農業収入が主である「第1種兼業農家」と兼業収入が主である「第2種兼業農家」とに分類している。1950年(昭和25)には618万農家のうち専業農家は50%、第2種兼業農家は22%であったが、1998年(平成10)の総農家数252万戸に占める割合はそれぞれ17%、68%となった。第二次世界大戦後、とくに高度経済成長期に入って、専業農家が激減するなかで、第2種兼業農家は急速に増加してきたのである。また兼業の職種によって、農業以外の事業を営む自営兼業農家と、恒常的勤務や日雇いなどに従事する雇用兼業農家とに分けられる。高度経済成長の初期までは日雇い労働や出稼ぎなどの臨時的で不安定な職種が多くみられたが、今日では恒常的な職員勤務や賃労働勤務が中心となっている。兼業農家の農業経営の特徴は、稲作、ミカン作、露地野菜作など、労働節約が可能な品目に偏っており、畜産や施設園芸などの比重は小さい。
兼業農家が戦後急増してきた理由としては、高度経済成長により他産業への就業機会が増加したこと、零細規模の稲作所得では都市勤労者世帯並みの所得が得られなかったこと、稲作の機械化の進展によって農業労働が大幅に省力化されたこと、などがあげられる。
こうした農家の兼業化傾向は、農村の都市化や工業の地方分散化によって、わが国のみならず欧米諸国を含めて世界的にみられる。しかしわが国の特徴としては、第2種兼業農家の比率が極端に高いこと、稲作を中心として農業部門における兼業農家の占める地位がいまなお高いこと、専業農家と兼業農家との生産性の格差が相対的に小さいこと、などが指摘される。今日の兼業農家は、兼業収入のために高い農家所得を維持し、農村での安定層として滞留している。しかし、わが国の農業政策の観点からは、資源配分(低い土地利用率)や農業構造の面で望ましくない問題を発生させている。兼業農家の農業労働力構成がしだいに女性化、老齢化してきている点を考えれば、わが国農業の自給力の確保や生産性の向上に対して、兼業農家のあり方は大きな鍵(かぎ)を握っているといえよう。
[嘉田良平]
『石橋俊治・御園喜博著『兼業農業の構造』(1975・東京大学出版会)』▽『OECD編、栗原源太監訳『兼業農家』(1980・中央大学出版部)』▽『日本農業経済学会編『農業経済研究第54巻2号 兼業農家問題特集号』(1982・岩波書店)』▽『青木紀著『日本経済と兼業農家』(1988・農林統計協会)』
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…世帯員のなかに兼業従事者が一人もいない農家を専業農家,世帯員に兼業従事者が一人以上いる農家を兼業農家という(兼業従事者とは,年間30日以上雇用兼業に従事するか,年間一定額以上の販売収入のある自営兼業に従事した世帯員をいう)。現代日本の農業では,専業農家は少なくなり,大部分の農家が兼業農家となっている。…
… 第2は,農業生産形態ないし農業技術に関する問題であって,(1)耕地利用率が大幅に低下し(1960年133.9→70年108.9→82年103.0),水田二毛作(水田裏作)が減退して稲作単作化が進んでいることである。これは兼業農家が増えて,作りやすい稲作だけに集中する傾向があることとも大いに関係している。(2)零細規模の個別経営が個別に農業投資や農業機械化を進めてきたため,その効率や採算が悪く,いわゆる過剰投資や〈機械化貧乏〉の問題が生じていることである。…
※「兼業農家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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