改訂新版 世界大百科事典 「専業農家兼業農家」の意味・わかりやすい解説
専業農家・兼業農家 (せんぎょうのうかけんぎょうのうか)
世帯員のなかに兼業従事者が一人もいない農家を専業農家,世帯員に兼業従事者が一人以上いる農家を兼業農家という(兼業従事者とは,年間30日以上雇用兼業に従事するか,年間一定額以上の販売収入のある自営兼業に従事した世帯員をいう)。現代日本の農業では,専業農家は少なくなり,大部分の農家が兼業農家となっている。兼業農家はまた,第1種兼業農家と第2種兼業農家とに分類される。日本の農業統計で専業農家・兼業農家の区分が初めて用いられたのは1904年の農事統計であるが,ほぼ現在と同じ統計上の定義が成立したのは41年の〈農林水産業調査規則〉においてである。80年の世界農林業センサスの一環として行われた日本の調査では,兼業農家について,〈第1種兼業農家とは,自家農業を主とする兼業農家をいう〉〈第2種兼業農家とは,自家農業を従とする兼業農家をいう〉と定義していた。自家農業と兼業とのどちらが主であるかの判断は,所得の大小による場合と労働時間の長短による場合とがあり,1950年の農林業センサスでは労働時間による分類が行われたが,60年以降のセンサス(世界農林業センサス,農業センサス等)では,所得によって区分することに統一されている。
なお,90年の農業センサスから,従来〈自営兼業〉扱いされていた〈農作業受託〉を〈農業〉扱いとした。したがって兼業農家は自営農業(自家農業+農作業受託)の主・従によって区分されることとなった。
専業農家および第1種兼業農家では,自家農業が家計の中心であり,世帯主などの主要な労働力が自家農業に従事しているので,第2種兼業農家に比べて経営耕地面積も大きく,家畜や農機具などの農業資本装備も多いため,労働生産性・土地生産性ともに高い。また酪農や施設園芸など専門的技術を必要とする農業部門は,ほとんど専業ないし第1種兼業農家によって経営されている。これに対して,第2種兼業農家の経営は,技術的な差が小さく,かつ販売や価格変動の問題のない稲作に集中している。
経済の高度成長にともない国民経済に占める農業部門のウェイトが低下し,農家数が減少するとともに,全農家のなかでの第2種兼業農家の割合は著しく高まった。農業センサスによれば,60年に総農家数606万戸中194万戸だった第2種兼業農家は,85年には298万戸に増え,総農家数438万戸の約2/3を占めるに至り,一方専業農家は同期間に208万戸から63万戸へと激減した(90年(新定義)には総農家数384万戸のうち,専業農家47万戸,第2種兼業農家198万戸であった)。このような傾向は欧米でもみられるが,欧米では兼業農家の規模がごく零細なため,戸数は多くても耕地面積や農業生産額に占める兼業農家のウェイトは小さいのに対し,日本では全国耕地面積のほぼ50%を第2種兼業農家が使用しており,農業生産額に占めるシェアも決して低くないのが大きな特色である。これは零細規模の農家が,非農業に主として従事するようになってからも耕地を手放さず,休日などを使って自家農業を続けているためである。第2種兼業農家の兼業の内容は,近年ではほとんどが安定した恒常的勤務であり,農業所得と兼業所得を合わせた農家所得の水準は,専業農家よりもむしろ高い。こうした農家は,土地という資産をもった労働者という意味で,〈土地もち労働者〉などと呼ばれている。
→農家
執筆者:荏開津 典生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報