賃金収入を得るために雇用主に労働を提供すること。資本主義社会になって初めてこのような形態の労働が行われるようになった。奴隷や農奴の場合は,一定の時間決めで労働力を売るということはなかったし,また彼らは人格的にも主人や領主に従属していた。だから賃労働が支配的な形態となるためには,単なる社会への商品経済の浸透だけではなく,封建的な束縛から解放され,またこれといった生産手段をもたず,したがって生活手段ももたない,いわゆる〈二重の意味で自由〉な労働者が歴史的にまた恒常的につくりだされねばならなかった。歴史的には,これは封建的家臣団の解体やイギリスで最も典型的にエンクロージャー(囲込み運動)として現れた農民の土地からの追い出しによって行われた。
労働の対価として受けとる賃金が労働力の価値に相当し,したがって労働者は労働力を再生産するに必要な生活資料を買い戻せるにすぎないことによって,労働者が資本の再生産過程に繰り返し登場する。こうして賃労働は恒常的につくりだされる。労働者はその労働力を売ることによって,資本家ないしその代理の命ずる場所で,彼らの指揮のもとに労働に従事しなければならないのであるが,それは,そうすることによってのみ賃金が支払われるからである。そして,この賃金の後払いが労働者に対する資本家の支配を容易にし,また賃金が生活資料を買い戻すにすぎないところから,労働者は〈賃金奴隷〉として特徴づけられることもある。資本の再生産は,こうしてその実,資本家と労働者の関係の再生産にほかならないことになる。そればかりか,資本の蓄積は,より拡大された規模で賃労働者をつくりだし,彼らを資本の下に従属させることになる。賃労働者は資本の蓄積がつくりだす景気循環によって産業に吸収され,またそこから反発されながら全体としては資本家の指揮・命令に服し,賃労働を繰り返すことを余儀なくされているのである。
執筆者:大塚 忠
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人間の労働力が商品として販売され、その購買者(資本家)が労働力商品の対価として賃金を支払うことと引き換えに、彼のもとで労働力の販売者(労働者)が行う労働の形態をいう。賃労働はマルクスの経済理論の基本的概念の一つである。賃労働が成立するためには、自己の自由意志に基づいて労働力を販売することができ、かつ生産手段を所有していないため(生産手段から自由)、労働力を販売する以外に生活することが不可能な「二重の意味で自由な労働者」が存在していなければならない。
賃労働の形成は資本主義成立の前提条件であり、また資本主義のもとで広く一般化する。つまり、賃労働なしには資本はありえないし、逆に資本なしに賃労働は成立しえない。資本主義社会は、商品の生産と交換が全面的に発展し、人間の労働力までも商品化されるようになった社会である。階級社会においては支配階級が生産手段を所有し、被支配階級は自分自身を維持するための必要労働を超えて支配階級のために剰余労働を提供することを強制されているが、資本主義の賃労働においては、剰余労働部分は隠蔽(いんぺい)され、労働者の労働すべてが賃金として支払われているかのごとく現れる。つまり賃金は「労働力」の価格ではなく「労働」の価格として現象する結果、搾取関係が覆い隠されてしまう。マルクスの理論では、資本主義が発展するにつれ資本のもとへの労働の従属は拡大・深化するが、同時に資本・賃労働関係を克服する変革主体として労働者階級の組織化が進むと考えた。
[伍賀一道]
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…資本の提供者が富の生産のために機械体系を組織し,他の人間は賃金と引換えに労働を提供するという形態が普通となる。資本家と労働者が分岐し,生産は資本と労働という2要素で構成される過程となり,人間の活動である労働は賃労働という形態を帯びる。 変化の第3の重要な特徴は,機械が発達すればするほど,生産過程の中で機械の比重が高まれば高まるほど,その中で人間の活動つまり労働の果たす役割が部分的になっていくことである。…
※「賃労働」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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