張出舞台(読み)はりだしぶたい

改訂新版 世界大百科事典 「張出舞台」の意味・わかりやすい解説

張出舞台 (はりだしぶたい)

芸能,とくに演劇舞台のうち,舞台の全部または一部客席によってとり囲まれる構造になっているもの。これとは対照的に客席と舞台とが平面的には1本の線で截然と区切られているものを額縁舞台と呼ぶ。古代ギリシアの野外劇場の舞台やエリザベス朝イギリスの舞台は張出舞台の典型である。日本の現行能舞台も,2辺が客席に接し,さらに橋懸りが客席に接するというふうに,客席に対して複雑な関係をもっているから,一種の張出舞台と考えられる。また,20世紀のアメリカなどで実験的演劇活動を目的として建設されている円形劇場の舞台も,原理的には張出舞台に含めてよい。

 これらの舞台に共通しているのは,舞台と客席とを隔てるものとしての幕をもたず,また,写実的で精巧な装置を使用しないことである。それはひとつには,立体的な装置を組むと演じられていることが客席から見えなくなるといった物理的事情のせいでもあるが,もっと本質的には,そもそも舞台上で演じられていることを現実の忠実な再現としてとらえたりはしないという演劇観のせいである。額縁舞台においては,舞台上で展開することは現実の記号であり,観客は透明な〈第四の壁〉を通してそれをのぞき見するというたてまえになっている。しかし張出舞台においては,劇とは現実とは別の,独自の論理をもった世界のことである。そこでは観客は額縁舞台の場合と違って舞台から存在を認知されている。だから俳優が観客に向かって直接に語りかけたり,独白の多用傍白のように,劇を単なる現実の再現ととらえたのでは許容できないせりふを語ったりすることも可能になる。2種類の舞台のあり方について芸術的優劣を論じることは無意味だが,歴史的事実として,額縁舞台はおおむね近代リアリズム劇と密接にかかわっており,張出舞台はそれ以前の詩的で祭式性をもった演劇とつながりがあることは否定できない。
劇場
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百科事典マイペディア 「張出舞台」の意味・わかりやすい解説

張出舞台【はりだしぶたい】

全部もしくは一部が客席に囲まれた舞台。古代ギリシアの野外劇場やエリザベス朝演劇のものが典型的。舞台と客席との親密度を増す効果があり,近代以後の実験劇場において試みられている。→額縁舞台円形劇場
→関連項目シェークスピア舞台

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