中性の紙。水による抽出液が中性で、従来の一般の紙(酸性紙)に比べ保存性がよい。長期保存を要する文書用紙および図書用紙などに賞用される。従来、にじみ止めなどの加工を施すサイジングには、酸性のロジン(松脂(まつやに)を精製して得られる樹脂)を用いる酸性サイズが行われていたが、中性紙は紙を抄(す)く際に中性サイズを行うことで得られる。
従来の酸性紙が長年月の保存に耐えず、国立公文書館や図書館などに長期保存されていた図書や文書の紙の劣化が著しいとして、1980年(昭和55)ごろから大きな問題となった。対策として長期保存を必要とする筆記用紙や印刷用紙の抄造(しょうぞう)の際に、それまで特殊な分野でしか使われていなかった中性サイズに切り替える製紙工場が急速に増えた。この種の公式の統計はないが、2000年(平成12)には新たに抄造された筆記用紙および印刷用紙はほとんどすべて中性紙に切り替えられている。
パルプの主成分はセルロース繊維で、紙を製造する際は水を加えて離解(パルプを単繊維状態にすること)し、叩解(こうかい)(パルプを水中でたたいて、各単繊維をもとの繊維体よりも細い糸状体にすること)して均一に繊維を分散させ、通常これに紙の不透明度を増加させるための填料(てんりょう)や、色を付けるための色料など各種助剤を加えて完全紙料とする。完全紙料を希釈し、金属またはプラスチックの網などの上に薄い層状の湿紙として抄き上げて絞り、加熱乾燥して紙とするが、そのままでは耐水性に乏しく墨やインキで書けばにじむので、耐水性の膠質(こうしつ)物でにじみ止めを行う。これをサイジングまたはサイズといい、用いる薬品をサイズ剤という。19世紀にそれまで行われていた膠(にかわ)サイズにかわり、ロジンサイズが発明され広く行われるようになった。
ロジンサイズは酸性サイズともいわれ、完全紙料にロジン石けんと硫酸アルミニウムの水溶液を添加し、加水分解により生成された不溶性のロジン酸アルミニウムの微粒子をセルロース繊維の表面に付着させる方法で行うが、セルロースは酸に弱く、酸性サイズされた紙は保存試験の結果からも、常温下で50~100年たつと、今日の古い書庫にあるような劣化した状態になるとされた。そのため保存性のよい紙が求められ、中性紙が注目されるようになったのである。
中性紙は以前からとくに酸性を嫌うものを包装したり、収納したりするための特殊な紙として、アルキルケテンダイマー等の中性サイズ剤を用いて少量製造されてきたが、その後研究が進み、アルケニル無水コハク酸などもサイズ剤として用いられるようになった。中性サイズを採用すれば、填料として資源的に不足し価格も高いチャイナクレイ(陶土)のかわりに、大量にあって安く供給できる沈降性炭酸カルシウムを使用できることも利点である。
[御田昭雄 2016年4月18日]
『紙パルプ技術協会編・刊『紙パルプ便覧』(1992)』
出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…和紙は礬土を使用していないので劣化が少なく,正倉院の紙のように1200年以上も保存できる。礬土無しにはロジンサイズは使用できないのでセルロースと反応する性質をもった中性サイズを用い,陽イオン性ポリマーと組み合わせた紙(中性紙)も製造されている。その他,染料や紙力増強剤を加えると完成紙料になり抄紙工程へ送られる。…
…このため,紙の繊維は硫酸に侵され,100年もたつとぼろぼろになる。近年,これら酸性紙に代わって,炭酸カルシウムをサイズ助剤に使った中性紙の製造も行われている。【水町 邦彦】。…
※「中性紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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