印刷用紙(読み)いんさつようし(英語表記)printing paper

日本大百科全書(ニッポニカ) 「印刷用紙」の意味・わかりやすい解説

印刷用紙
いんさつようし
printing paper

印刷用に製造された紙。紙の発明の最大の目的が情報保存および伝達であったが、紙への印刷は今日でも情報の保存と伝達の有効な手段である。

[御田昭雄 2016年4月18日]

印刷用紙の原料

従来、木材の晒(さらし)パルプを主原料とするか、またはこれに砕木パルプを加えて主原料としていた。しかし、1970年(昭和45)ごろから地球環境問題が意識されるようになり、その対策のための技術開発が進み、紙くず減らしのために古紙の回収率があがり、除塵(じょじん)、精選、脱墨、漂白などの技術が進歩したため、再生パルプの品質が向上し、印刷用紙原料として使われるようになった。かつては古紙の再生パルプは低品質で板紙にしか使えなかったが、2014年(平成26)には年間消費される古紙1709万トンのうちの200万トンが雑誌などに、407万トンが新聞用紙の原料として利用され、再生パルプは新聞用紙や下級印刷用紙などに大量に使われるようになった。

 印刷用紙は各種パルプを主原料とし、副原料として紙の不透明度を増すために填料(てんりょう)、インキのにじみ止めとしてサイズ剤などを配合し、通常長網抄紙機(ながあみしょうしき)を用いて抄紙する。またツインワイヤー抄紙機で製造する紙は、表裏差が少なく、平滑で、高速印刷の適性があり大量生産に向くので、下級印刷用紙の製造に使われている。抄紙された紙の用途によっては、カレンダー(数本の鉄製の回転ロールの間に紙を通すことにより、紙の表面の凹凸をつぶし、平滑処理を行う機械)を通して光沢を付けるスーパー仕上げをしたり、表面塗工したりすることが多い。

[御田昭雄 2016年4月18日]

印刷用紙の種類

印刷用紙には、上級印刷用紙から中級、下級印刷用紙、グラビア用紙薄葉紙(うすようし)、塗工印刷用紙などがある。

(1)上級印刷用紙 化学パルプ100%で抄造した紙で、印刷用紙Aその他がある。印刷用紙Aは晒化学パルプを100%使用したもので、書籍用紙など印刷用紙の代表品種で、教科書、商業印刷などに使われる。

(2)中級印刷用紙 化学パルプを下級印刷用紙より多く配合した紙で、印刷用紙Bは配合率70%以上で教科書、書籍の本文用紙などとして使われる。印刷用紙Cは化学パルプの配合率が40~70%で白色度65%前後、雑誌の本文用紙、電話帳の本文用紙などに使われる。

(3)グラビア用紙 機械パルプを含有する。グラビア印刷の適性を出すため、スーパーカレンダー仕上げをして表面を平滑にする。

(4)下級印刷用紙 印刷用紙Dは化学パルプの配合率が40%未満で白色度55%前後、雑誌の本文用紙として使用される。印刷仙花紙は古紙の再生パルプ100%のかさ高の特殊更紙(ざらがみ)で、漫画本の本文用紙として使われる。

(5)薄葉印刷紙 インディアペーパーインディア紙)、タイプ用紙、コピー用紙、その他薄葉印刷用紙に分けられる。薄葉紙を代表するインディアペーパーは、本来強度がありながら柔らかく、そして不透明度が高くきわめて薄くて(厚さ0.04~0.05ミリメートル)高級感のある紙で、聖書辞書や六法全書などに用いられる。かつては、その原料パルプとして、高価で強度がきわめて大きい麻パルプ、綿パルプ等を主原料とし、安価で柔らかい針葉樹亜硫酸パルプを配合して抄造していた。のちに、安くてじょうぶな広葉樹の晒クラフトパルプが市場に現れてからは順次その配合割合が増え、現在では、晒クラフトパルプ100%のインディアペーパーが抄造され、強度はあるが、ぱりぱりした感じの紙に辞書などの多くが印刷されるようになった。

(6)塗工印刷用紙 紙に塗工処理を行ったもの。そのうちアート紙は1平方メートル当り両面で40グラム前後の塗料を塗布したもので、美術印刷用紙やカレンダー用紙として使われる。上質コート紙は上質紙に塗料を1平方メートル当り両面で20グラム前後塗布したもので、高級美術書、雑誌の表紙、ポスターなどに使用される。微塗工印刷紙は中質紙に塗料を1平方メートル当り両面で12グラム以下塗布したもので、原料として機械パルプを配合した中質紙を使っているため、薄くとも不透明度が高く、両面カラー印刷に耐えるので新聞の折込広告などに好んで使われる。

 日本における2014年の板紙を除いた紙の生産量は1512万トンである。そのうち約77%にあたる1163万トンは印刷・情報用紙および新聞用紙であり、これは紙のほとんどが情報の伝達と保存に使われていることを示している。

[御田昭雄 2016年4月18日]

『紙パルプ連合会編・刊『紙パルプ技術便覧』(1992)』『野村忠義著『上手に付き合う印刷用紙』(1993・日本印刷新聞社)』『原啓志著『印刷用紙とのつきあい方』(1997・印刷学会出版部)』『日本製紙連合会編・刊『紙・パルプ産業の現状』(月刊『紙・パルプ』2001年特集号・2001)』『紙業タイムス社編『印刷と用紙 2005』(2005)』

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改訂新版 世界大百科事典 「印刷用紙」の意味・わかりやすい解説

印刷用紙 (いんさつようし)
printing paper

家庭用薄葉紙や絶縁紙などを除いて大部分の紙は多かれ少なかれ印刷されるが,これらをすべて印刷用紙とはいわない。おおよその定義としては,一般の印刷会社で印刷され,印刷物として見たり読んだりすることが主要目的である紙を印刷用紙という。したがって,新聞用紙は一般の印刷会社で印刷するものではないので,印刷用紙の分類から外れる。印刷用紙には塗工紙(コーテッド紙)と非塗工紙とがある。印刷効果を高めるために白色顔料に結合剤を加えて作った塗工液を塗って表面平滑性を改善したのが塗工紙で,塗工処理をしないのが非塗工紙である。後者は化学パルプの含有量が100%,70%以上,70~40%,40%未満を規準として印刷用紙A,B,C,Dに分類され,Aを上質紙,Bを中質紙,Cを上更紙(じようざらがみ),Dを更紙と呼んでいる。印刷用紙Aは書籍,ポスター,教科書など商業印刷一般に用いられ,印刷用紙Bも書籍,教科書,雑誌などに用いられる。印刷用紙CおよびDは電話帳や雑誌などに使用され,機械パルプの含有量が多くなるほど品質は低下する。非塗工紙にはそのほかに,雑誌のグラビア写真印刷に用いるグラビア用紙,漫画雑誌本文に使用される印刷泉貨紙がある。塗工紙は塗工液の塗布量で分類し,塗布量が1m2当り20g前後のものをアート紙,10g前後のものをコート紙,5g前後のものを軽量コート紙と呼んでいる。
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百科事典マイペディア 「印刷用紙」の意味・わかりやすい解説

印刷用紙【いんさつようし】

各種印刷用に作られた紙の総称。印刷インキをよく吸収し,平滑緻密(ちみつ)で,適度の弾性と不透明度をもつ。用途別に証券用紙,書籍用紙,新聞用紙,グラビア用紙に分けるほか,表面塗布の種類と程度によりコート紙,軽量コート紙,アート紙など多くの種類がある。JISでは化学パルプと砕木パルプの配合によりA(化学パルプ100%,上質紙),B(同70%以上,中質紙),C(同40%以上,上ざら紙),D(同40%未満,ざら紙)の4種に分類。
→関連項目印刷機

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「印刷用紙」の意味・わかりやすい解説

印刷用紙
いんさつようし
printing paper

印刷物に用いられる紙。化学パルプ砕木パルプの混合比率により化学パルプ 100%の印刷用紙A (上質紙,イミテーションアート紙など) ,70%以上の同B (中質紙) ,40%以上の同C (上更紙) ,40%未満の同D (更紙) などに分れる。またグラビア用紙,証券用紙,辞典用紙,模造紙,コットン紙などがある。インキの吸収性,なめらかな表面,均一な質など印刷適性が良いことが必要条件であり,白色かつ不透明なものがよい。

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世界大百科事典(旧版)内の印刷用紙の言及

【紙】より


[印刷・筆記・図画用紙]
 書籍,雑誌などの印刷用として作った紙で,表面に塗料を塗っていない非塗工紙と塗布した塗工紙に分かれる。前者には印刷用紙,グラビア用紙その他と,筆記・図画用紙がある。印刷用紙は化学パルプの使用量で分類し,100%,70%以上,40%以上,およびそれ未満の紙をA,B,C,Dと格づけしている。…

※「印刷用紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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