改訂新版 世界大百科事典 「分配理論」の意味・わかりやすい解説
分配理論 (ぶんぱいりろん)
生産活動の成果である生産物が,所得という形を経由して,労働,資本,土地などにどのように分配されるかを明らかにすることは,経済学の主要な課題の一つである。このような各生産要素への所得分配は,所得の機能的分配と呼ばれる。これに対し,同じ所得分配でも,異なった生産要素の所有者としての個人に対する分配は,所得の個人的分配と呼ばれる。分配理論の対象は前者であり,後者は所得分布の統計的研究として取り扱われている。
分配理論の定説といえるものは今日でもない。新古典学派の限界生産力説,M.カレツキの独占度説,ケインズ学派の投資先行説などが有名である。以下,この三つの説を簡単に説明する。
(1)限界生産力説 他の生産要素の投入量を一定にしたまま,労働投入量を1単位増加させたときの産出量の増加分を,労働の限界生産力と呼ぶ。他の生産要素についても同様である。この理論によれば,各生産要素の実質価格はその限界生産力に等しく,全生産物はそれによって各要素間に完全に分配されるとする。しかし,この結論を導くためには完全競争が前提となっている。
(2)独占度説 市場の競争が不完全な場合,生産要素の実質価格はもはや限界生産力と等しくならない。現実の社会では不完全競争が支配的であり,各企業は多かれ少なかれ独占的な地位にあるとして,カレツキは独占度の概念を導入した。彼は生産物の価格と限界費用(生産量を1単位増加させるのに必要な費用)が乖離(かいり)するほど独占度が大きいと定義し,総売上額に占める賃金支払額の比率,すなわち労働の分配率を考える。そして,独占度が上昇するほど労働の分配率は減少するという結論に達する。
(3)投資先行説 賃金所得からの貯蓄率と利潤所得からの貯蓄率を所得額とは独立で一定とし,後者が前者より大きいとする。このとき,国民所得に占める利潤所得の比,すなわち利潤分配率は投資量により決定され,投資量が増大すれば利潤分配率も増大するとされる。
以上の三つの説のほかに,社会的および政治的勢力によって賃金が決定されるとする勢力説や,賃金は労働力の再生産費用によって決まり,利潤は労働者からの搾取であるとするマルクスの労働価値説などがある。
執筆者:丸山 茂
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報