前衛芸術(読み)ゼンエイゲイジュツ

デジタル大辞泉 「前衛芸術」の意味・読み・例文・類語

ぜんえい‐げいじゅつ〔ゼンヱイ‐〕【前衛芸術】

既成芸術概念や形式を否定し、革新的な表現をめざす芸術の総称アバンギャルド

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精選版 日本国語大辞典 「前衛芸術」の意味・読み・例文・類語

ぜんえい‐げいじゅつゼンヱイ‥【前衛芸術】

  1. 〘 名詞 〙 ( [フランス語] avant-garde の訳語 ) 第一次世界大戦中にヨーロッパで起こったキュービズムダダイズムシュールレアリスムなど、および第二次世界大戦後の文学上のヌーボーロマン、演劇上の不条理劇など、尖端的・変革的芸術の総称。前衛

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「前衛芸術」の意味・わかりやすい解説

前衛芸術
ぜんえいげいじゅつ

前衛(フランス語でアバンギャルドavant-garde)とは、もともと軍隊用語で、最前線を守る兵士または隊をいう。前衛芸術というと、階級闘争文化闘争の最前線を担う、またはその担う人を描く、という意味の前衛的な社会主義芸術をさす場合と、それ以外のところで20世紀的な新しい芸術観・方法・技法の最先端にたとうとする個人主義系列の芸術をさす場合とがある。後者のほうは、普通、フランス語のままアバンギャルドとよばれる。前者は、たとえば1927年(昭和2)11月に蔵原惟人(くらはらこれひと)らによって結成されたプロレタリア芸術運動組織が、前衛芸術家同盟という名称のものであったことによって示されているように、昭和初年の革命文学プロレタリア文学のことを意味した。ただし、前衛芸術家同盟の場合にはまだかならずしもはっきりしていなかったところの、プロレタリア芸術の前衛か、政治的前衛の立場にたつ芸術か、という問題が、その直後に合同によって成立した全日本無産者芸術連盟(略称ナップ、1928年3月結成)においては、蔵原によって、政治的な「前衛の観点にたつ」プロレタリア・リアリズム作品の制作を中心とする運動、という方向に進められた。そこから共産主義的な前衛の立場が強く押し出されるようになり、さらにその後、宮本顕治によって「党の芸術」の主張に至った。

 本来はプロレタリア文学も、前記の狭義のアバンギャルドと同じく芸術運動の前衛であり、芸術観・方法・技法のすべての面にわたって既成の芸術を乗り越えていくたてまえのものであったが、確かに、芸術観においてはその社会性の自覚の強烈さにおいて新しく、方法上でもリアリズムが「前衛の観点」で新しい質のものに変えられた面はあったにしても、芸術方法や技法においては大正期的ないし19世紀的な性質を強く残していた。なお、革命芸術=プロレタリア芸術としての前衛芸術と狭義のアバンギャルドは、等しく既成芸術との対立・抗争において発展してきたものであり、相互に移行――というよりも狭義のアバンギャルドがプロレタリア芸術の側に移行するというケースが多く出、西欧ではシュルレアリスムのアラゴンやエリュアールの場合をはじめとして、その例が多い。日本でも、ダダや表現主義などの傾向にたっていた壺井繁治(つぼいしげじ)や岡本潤や高見順らが、プロレタリア芸術に参加している。

 20世紀の後半以後は、旧芸術が力を失うとともに、革命芸術もアバンギャルドも新鮮さを失い、それに伴って「前衛」ということばがふさわしくない、という状態になっている。なお、別々に展開した革命芸術とアバンギャルドとを統合することによって、まったく新しい次元の芸術をつくりだそうとする試みは、世界でも日本でもさまざまに続けられている。その手探りは、新しい前衛芸術の模索というべきものである。

[小田切秀雄]

『滝口修造著『近代芸術』(1938・三笠書房)』『花田清輝著『アヴァンギャルド芸術』(1954・未来社)』『針生一郎著『芸術の前衛』(1961・弘文堂)』

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世界大百科事典(旧版)内の前衛芸術の言及

【アバンギャルド】より

…さらに芸術に転じて,因襲や社会通念を打破し,未知の表現を切り開こうとする,芸術上の実験や冒険をさす。アバンギャルドとは,一般にはこの前衛芸術のことをいう。 その源流はランボー,ロートレアモン,ネルバルら,社会から疎外される不幸を現実から自由な想像力の起点に転じた,19世紀の〈呪われた詩人たち〉で,ベル・エポックに文明の終末と人類の黙示録的解放をうたったアポリネールや,精神生活の二等辺三角形のうち,孤独な頂点にいる芸術家は〈精神の内的必然性〉に従えば,底辺にいる大衆の未来の生活感情を先取りできると説いたカンディンスキーの著書《芸術における精神的なもの》(1912)をはじめ,20世紀初頭のフォービスム,キュビスム,表現主義,未来主義,シュプレマティズム,構成主義などの芸術運動には,この概念がすでに潜在していたといえる。…

【近代主義】より

…こういう状況をまえにして,とくに宗教や文芸を先頭とした文化や意識の領域で,近代主義的理念や価値の貫徹をうたった運動が興ることになった。その先駆となったのが,後発のカトリック教国における一部の教会によって点火された聖世界の世俗化の動きであり,それに続いたのが1920年代の文芸世界におけるいわゆる〈前衛芸術modern art〉運動だった。とくに後者は,封建的伝統を攻撃するばかりではなく,いまや〈新たなるものの伝統〉として市民文化の世界に君臨することになったブルジョア的世界観そのものにまで挑戦した。…

【明治・大正時代美術】より

…ヨーロッパでは第1次世界大戦の荒廃の中から,あらゆる既成の表現を否定する,文学や美術における反抗運動,ダダが生まれた。これと同じように,震災による荒廃は,ダダ的な傾向を生む土壌となり,震災後の精神的な不安の時期を通じて,芸術の革命をめざす前衛芸術運動が急激に盛んとなる。それはまた,革命の芸術をめざす共産党系のプロレタリア芸術運動を呼び起こすことになる。…

※「前衛芸術」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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