副腎偶発腫瘍

内科学 第10版 「副腎偶発腫瘍」の解説

副腎偶発腫瘍(副腎皮質)

定義・概念
 副腎疾患以外の検査目的で行った画像検査で偶然発見された腫瘍径1 cm以上の副腎腫瘤を「副腎偶発腫瘍(副腎インシデンタローマ)」という.
原因・病因
 腹部CTMRI,超音波などの画像診断技術の進歩と,それらの検査を含む人間ドックなどの健康診断の普及に伴い,発見の頻度が増えている.
疫学・発生率・統計的事項
 厚生労働省による全国調査(平成11年度~13年度)によると,2864症例の集計結果から,副腎偶発腫瘍の病因別頻度は,ホルモン非産生腺腫(51.2%),コルチゾール産生腺腫(8.9%),褐色細胞腫(8.6%),アルドステロン産生腺腫(4.2%),悪性腫瘍転移(3.9%),骨髄脂肪腫(3.9%),副腎過形成(4.1%),副腎囊胞(2.4%),神経節神経腫(1.7%),副腎癌(1.4%)などであった.
病理
 副腎皮質腺腫,褐色細胞腫が全体の約70%を占め,その他,副腎皮質癌(原発性および転移性),副腎皮質過形成,骨髄脂肪腫,副腎囊胞,神経節腫瘍など多彩な病理像を呈する.
臨床症状
1)自覚症状:
良性腫瘍であれば,ホルモン産生の種類により,コルチゾールではCushing徴候,高血圧,糖尿病などがあり,アルドステロンでは高血圧,低カリウム血症など,また褐色細胞腫では無症状~高血圧,頭痛,頻脈,発汗過多などを呈する.特に,褐色細胞腫では典型例よりもホルモン産生能が軽度の場合に副腎偶発腫瘍として発見される例が増えている.
2)他覚症状:
コルチゾール,アルドステロン,カテコールアミンなどを過剰産生すると,高血圧,糖尿病,高脂血症などを認める.メタボリック症候群副腎腫瘍が潜んでいる場合がある.
診断
 副腎偶発腫瘍なので,何らかの画像検査により副腎腫瘍を認めるのが前提であり,その他の検査により効率的に鑑別診断を行う.治療の観点からは,ホルモン産生能と良悪性の鑑別の2点がポイントである(図12-6-27).
1)内分泌検査:
overnightデキサメタゾン1 mg抑制試験を行い,翌朝の血清コルチゾール濃度>3 μg/dLのときに潜在性コルチゾール過剰(subclinical auto­nomous glucocorticoid hypersecretion:SAGH)が疑われる.引き続き,デキサメタゾン8 mg抑制試験を行い,翌朝の血清コルチゾール濃度>1 μg/dLのときにコルチゾールの自律的産生の確診となるが,デキサメタゾン8 mgの糖尿病患者への負荷は慎重に判断すべきである.24時間尿中メタネフリン,ノルメタネフリン,アドレナリン,ノルアドレナリン排泄を測定し,高値ならば褐色細胞腫が疑われる.高血圧を呈する例では,血清カリウム濃度,血漿アルドステロン濃度(pg/mL)/血漿レニン活性(ng/mL/時)比(ARR)を測定し,ARR>200のときには原発性アルドステロン症が疑われる.
2)画像検査:
CTやMRIによる腫瘍の大きさや性状は良性・悪性の鑑別に有用である.通常は,腫瘍径が4 cm未満のときは良性腫瘍である.副腎皮質腺腫では,非造影CTにて,均一で辺縁が整であり,脂質含量が多いために,CT attenuation value<10 HU (Hounsfield units)の低吸収像を認める.MRIでは,化学シフトMRI(out-of-phase)における腫瘍内シグナルの低下(脾臓と比較して)および,T2強調画像で肝臓と同程度のシグナルを認めるときに,良性が疑われる.しかし,褐色細胞腫ではT2強調画像にて高シグナルを認める例が多い.131I-アドステロール副腎皮質シンチグラムは副腎皮質由来であるという情報以外は非特異的である.また,131I-MIBG副腎髄質シンチグラムは褐色細胞腫の診断に有用であるが,スクリーニングにおける意義は不明である.PETは,近年その有用性が指摘されている.FDG-PETは,悪性での集積が特徴である.11C-metomidate-PETは,11β-ヒドロキシラーゼのシグナルであることから,副腎皮質由来か否かの診断に有用であるが,良悪性の鑑別には適していない.
3)経皮的針生検:
CTガイド下針生検は,すでに癌(肺癌,乳癌,腎臓癌など)の既往がある例で,ほかに転移がなくて,副腎に不均一な高シグナル>20HUを認めるときには転移性副腎癌の可能性があり,適応がある.しかし,それ以外では,良悪性の鑑別は不可能であり,また褐色細胞腫では高血圧発作を誘発する可能性があり禁忌となる.
鑑別診断
 副腎偶発腫瘍を発見した場合には,手術適応の可能性から,ホルモン産生腫瘍(コルチゾール産生腫瘍,褐色細胞腫,アルドステロン産生腫瘍,副腎アンドロゲン産生腫瘍)および悪性腫瘍を鑑別する必要がある.
経過・予後
 手術せずに経過観察する場合は,腫瘍径とホルモン過剰産生に留意する必要がある.長期の経過観察において,5~25%は腫瘍径の増大を認め,3~4%は縮小する.CTによる経過観察は6~12カ月ごとに行う必要がある.腫瘍径の増大を認めない症例では,画像検査の継続の必要性については不明である.一方,ホルモン過剰産生は,経過観察症例の20%未満に認めるが,腫瘍径3 cm未満では可能性が低い.経過観察中に顕在化するホルモン産生では,コルチゾール過剰産生が最も多く,カテコールアミンやアルドステロンはまれである.1年に1回,デキサメタゾン1 mg抑制試験および尿中カテコールアミン,メタネフリン検査を行い,3~4年間ホルモン産生が顕在化しなければその時点で経過観察終了としてよいとの報告がある.
治療・予防・リハビリテーション
 片側性の副腎偶発腫瘍で,糖質コルチコイド,鉱質コルチコイド,副腎アンドロゲン,カテコールアミンなどの過剰産生を認めれば,副腎摘出術の適応となる.臨床症状を認めない場合でも,褐色細胞腫であれば手術適応となる.サブクリニカルCushing症候群では,インスリン抵抗性,高血圧などの代謝異常を示し,手術によりこれらが改善するとの報告もあるが,長期予後は不明である.非機能性腫瘍の場合は,腫瘍の大きさ,画像検査での特徴,腫瘍の増大率などにより良悪性を考慮する.したがって,一般的には腫瘍径6 cm以上では手術適応とする報告が多い.腫瘍径4~6 cmのときは,経過観察か手術が行われる.画像検査で増大傾向を認めるときや,脂肪含量が少ないときなどは悪性を疑う. 副腎への癌転移が疑われる例における副腎摘出術の適応はない. 手術適応がある場合には,開腹下あるいは腹腔鏡下副腎摘出術が行われる.[柴田洋孝]
■文献
Terzolo M, Pia A, et al: Subclinical Cushing’s syndrome: definition and management. Clin Endocrinol, 76: 12-18, 2012.
Terzolo M, Stigliano A, et al: AME position statement on adrenal incidentaloma. Eur J Endocrinol, 164: 851-870, 2011.
Zeiger MA, Siegelman SS, et al: Medical and surgical evaluation and treatment of adrenal incidentalomas. J Clin Endocrinol Metab, 96: 2004-2015, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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