日本大百科全書(ニッポニカ) 「リウマチ熱」の意味・わかりやすい解説
リウマチ熱
りうまちねつ
rheumatic fever
A群溶血性連鎖球菌(溶連菌)による扁桃(へんとう)を中心とした上気道感染に個体の免疫応答が加わって発症する全身性の炎症疾患で、膠原(こうげん)病の一つとされる。かつて急性関節リウマチとよばれたこともある。溶連菌感染後に発症するが溶連菌感染症ではなく、溶連菌の毒素に対する抗体が発症に関連するものとみられており、溶連菌は検出されない。溶連菌感染者の3%前後が発症し、5~15歳の小児に多い。後遺症としてリウマチ性心疾患(とくに心臓弁膜症)が多くみられるのが特徴である。
[高橋昭三]
症状
典型的な場合は、上気道炎の治癒後2~3週経過してからふたたび発熱するのがリウマチ熱の始まりで、関節炎をおこしてくる。誘因となる上気道炎は、ほとんど症状がなくて気づかれない場合もある。リウマチ熱の関節炎は移動性多発性関節炎で、膝(しつ)関節や股(こ)関節のほか、足首や手首、肘(ひじ)や肩など四肢の大きな関節が次々に腫(は)れて痛む。心雑音の聞こえる心炎も重要な症状で、心臓の弁膜や筋肉が侵される。皮膚症状としては輪状紅斑(こうはん)と皮下結節がみられる。輪状紅斑は種々の大きさで、痛くもかゆくもなく、早期に消失しやすいため注意していないと見逃すことがある。皮下結節は関節付近の皮膚下に現れ、小さなエンドウマメ大である。発症してから数か月後に小舞踏病がみられることがある。これは無意識のうちに手足が動いたり顔をしかめたりするもので、女児に多くみられる。以上がおもな症状で、大症状ともよばれるが、そのほかに鼻出血、胸痛、腹痛などをおこすこともある。
リウマチ熱の症状は、放置しても1~3か月のうちに大部分の人は自然治癒するが、心炎をおこしたときに治療を十分に行わないと、治癒後に心臓弁膜症を残すことになる。
[高橋昭三]
診断
血沈、CRP(C反応性タンパク試験)、白血球数、胸部X線、心電図などの検査も行われるが、もっとも重要なのはASO値の検査である。溶連菌は血液を溶血させる毒素(ストレプトリジンO)を出すが、溶連菌感染をおこすと、この溶血素に対する抗ストレプトリジンO(略称ASOまたはASLO)という抗体が血液中に出てくる。したがって、このASO値が高くなれば溶連菌感染をおこしていたことがわかる。このASOの高値と前述の大症状のどれかがあれば、リウマチ熱の確実な診断が行われる。
[高橋昭三]
治療
心炎の発症および進展防止が治療の根本となる。心炎があれば副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤を用い、心炎がなければアスピリン製剤が使われる。一般には、栄養のバランスのとれた食事を与え、安静を守らせる。心炎をおこしていなければ2、3か月で普通の生活に戻れるが、心炎があればまず絶対安静にし、以後は医師の指示によってその程度を下げていき、全治しても約半年は安静を心がける。
リウマチ熱は再発のたびに心臓弁膜症を残す率が高くなるので、初回の段階で溶連菌を根絶させるために十分量の抗生物質(とくにペニシリン)を少なくとも10日間は投与する。小児では再発により新しく心炎をおこしてくることもあるので、治癒後も引き続き成人に達するまで定期的に医師のチェックを受け、ペニシリンの予防内服を行う。ただし、心理的圧迫を与えない配慮が必要である。なお、軽い心臓弁膜症が残った場合は再発のたびに悪化するので、一生ペニシリンによる防止を続ける必要がある。
[高橋昭三]