改訂新版 世界大百科事典 「労働者災害補償」の意味・わかりやすい解説
労働者災害補償 (ろうどうしゃさいがいほしょう)
業務上の負傷,疾病,障害,死亡を理由として被災労働者または遺族が受ける補償。労働者が仕事のうえで負傷し,病気になり,負傷や病気の結果身体障害が残り,または死亡した場合に,労働基準法または労働者災害補償保険法による労災補償が行われる。補償の種類としては,(1)傷病の療養のための療養補償,(2)療養のための休業中に従前の賃金の6割が支払われる休業補償,(3)傷病が治った(症状が固定した)場合に残った障害の程度に応じて支払われる障害補償,(4)労働者の死亡当時その収入によって生活していた遺族に支払われる遺族補償および葬祭料がある。これらの労災補償は業務災害に対するものであるから,健康保険や厚生年金保険の対象となる私傷病と区別する必要が生じる。これが,業務上外の認定の問題である。
業務上外の認定には困難が伴うことが少なくないので,車の衝突,高所からの転落,電動歯車との接触等の,だれの目にもはっきり映る瞬間的なできごとに注目して,これを〈災害〉と呼び,就業時間中に生じた傷病等のうち,災害を伴うものは,業務によって生じたものと推定することにしている。例えば,とび職が建設中の建物から転落死亡した場合に,転落がそれ以前に生じた脳出血による死亡の結果である等の疑いがある場合でも,それに対する反証がない限り,業務によって死亡したものと推定されることになる。業務上外の認定では労働者の過失は問われない。ついうっかりして足を踏みはずしたとか,上司の指示を無視して安全帽を着用しなかったことに主たる原因がある場合でも業務災害である。また業務上と認められるためには,業務が災害の最も大きな原因である必要はなく,例えば,勤務中の運転手が他の車に追突された場合のように,事故の最も大きな原因がほかにあっても,業務が災害発生の相対的に有力な原因でさえあればよいとされている。このようにして,勤務時間中の災害による傷病死は,〈けんか〉など業務と無関係な原因によるものを除き,業務上となる。事業場内の休憩時間中の災害も,施設の欠陥や機械設備の管理の手落ちによるものは業務上となる。事業場外の災害も,就業時間中の場合は業務によるものと推定されるが,就業時間外の場合は業務を行うために直接必要な行為によるものであるか否かが問われることになり,出張中の宿泊に伴う災害は業務上とされるが,社員旅行や社内運動会中の災害は,参加が使用者によって義務づけられていないかぎり,業務外となる。災害を伴わない職業病については認定がいっそう困難なので,チェーンソー使用による振動病とか,粉じん業務によるじん肺等,一定の疾病にかかりやすい業務の種類を一覧表によって特定して,当該業務に従事した者が当該疾病にかかったときは,業務上の疾病と推定することにしている。なお,労災保険は,業務災害のほか,通勤災害をも保護の対象とする。
→労働者災害補償保険
執筆者:保原 喜志夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報