死亡した者のあとにのこされた配偶者をはじめとする家族を一般に遺族とよぶ。死者が生前その家族の中でおもな生計の担い手であった場合,遺族はその者から扶養をもはや受けられず,所得も減少することにより生活に困難をきたすおそれがある。とりわけ遺族が母子であれば,片親世帯としてその後の生活上に心身ともに多くの困難に遭遇することも少なくない。また死者が稼ぎ手であったか否かにかかわりなく,遺族は精神的苦痛を受けるのみならず葬祭費などの家計支出を余儀なくされる。そこで自己の勤労によって生活をたてていくことが本質的な生活手段である大多数の人々にとって,遺族に対するなんらかの経済的給付制度が重要な意味をもってくるのである。元来,国家的制度としての遺族給付制度は,戦闘や公務で死亡した軍人の家族に対する扶助を定めた1875年(明治8)の太政官達48号のいわゆる〈陸軍扶助概則〉に始まるが,〈遺族〉という用語は78年太政官達27号〈戦役死傷者恩給令附録相当扶助料概則〉が最初のようである。
今日では遺族給付を定める立法はきわめて多岐にわたり,これらをその目的・機能等からみると次のように類型化できる。(1)労働災害補償的立法(労働者災害補償保険法など),(2)生活保障的立法(厚生年金保険法,国民年金法など),(3)国家補償的立法(軍人軍属・準軍属等としての戦時勤務,警察官の職務への協力,消防その他災害救助業務等への命令による従事・協力ないし予防接種受診など公権力発動行為受忍の結果として死亡した場合。恩給法,戦傷病者戦没者遺族等援護法,災害救助法,消防法など),(4)損害賠償代替的立法(公害健康被害補償法,犯罪被害者等給付金支給法など),(5)葬祭費のカバーを目的とするもの(健康保険法その他の医療保険立法)などがあげられる。
これらの遺族給付を受けうる遺族の範囲や順位等については,法律によってそれぞれ定められている。ほとんどに共通するのは,死者死亡当時の配偶者,子,父母,孫,祖父母など,死者と一定の家族法上の続柄のあった者で,同時に死者死亡当時に主としてその者により生計を維持しまたは生活をともにしていた者であることという2要件である。〈配偶者〉については,恩給法以外では事実婚のそれを含むことがそれぞれの立法で明記されている。死者に事実婚配偶者以外に戸籍上の配偶者もいるといういわゆる重婚的内縁の場合については,行政上,届出による婚姻関係が実体を失っているときは事実婚配偶者が遺族として保護されるというやり方がとられている。また労災補償的立法では以上の親族のほかに兄弟姉妹まで,また戦傷病者戦没者遺族等援護法では弔慰金についてはさらに3親等内の親族にまで,それぞれ遺族の範囲を広げている。以上の諸立法のほか民法では,ある人の死が第三者の不法行為によるときは被害者の父母,配偶者,子にいわゆる遺族固有の慰謝料請求権を認めているし(民法711条),また判例には死者に対する名誉毀損が遺族に対する名誉毀損ともなる場合があるとしたもの(静岡地裁1981.7.17判決)もある。
現行遺族給付制度には,社会保障立法における遺族年金が,たとえば厚生年金保険では遺族厚生年金が老齢厚生年金の3/4にすぎず,また国民年金では遺族基礎年金の妻の分の定額は25年の資格期間をみたした者の老齢基礎年金と同額とされているものの,受けうる遺族の範囲は子の他はいわゆる母子世帯の場合に限定されているなどの問題がある。
また,ひとしく戦争犠牲者でありながら,原子爆弾被爆者に対しては政府は国家補償としての被爆者援護法制定を拒否し続けてきた。ようやく1994年12月〈原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律〉が従来の原爆二法にかわって成立し,1995年7月1日より施行され,ここではじめて特別葬祭給付金という名で原爆投下時に遡って遺族給付を行うこととした。このほか,戦前日本人として徴兵・徴用されて死亡した朝鮮人,台湾籍中国人の遺族について,戦後これらの人が外国人となったことを理由に恩給法や戦傷病者戦没者遺族等援護法などの適用が排除されていることなど問題が少なくない。
→遺族年金 →戦争犠牲者援護 →やもめ
執筆者:小川 政亮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一般的には人の死後に残された家族や親族をいう。法律的には人の死亡に伴って一定の給付(遺族補償)がなされる場合に受給権者の範囲を画するために用いられる。その意義は、それぞれの法律の趣旨・目的の違いや立法の偶然により若干異なるので、法律ごとにみていく必要がある。業務上死亡した労働者の遺族に与えられる遺族補償の受給権者である遺族は、第一順位が配偶者(内縁を含む)、第二順位が子、父母、孫および祖父母であって、労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた者または労働者の死亡当時これと生計を一にしていた者、第三順位は労働者の子、父母、孫および祖父母であって、第二順位に該当しない者、ならびに労働者の兄弟姉妹とし、その順位は前記の順とする(労働基準法施行規則42条~45条)と定められている。労働者災害補償保険法上の遺族年金を受けることができる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹であって、労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた者とされるが、妻(内縁を含む)以外の者については年齢制限がある(同法16条の2)。国家公務員災害補償法第16条、地方公務員災害補償法第32条もほぼ同様である。国家公務員退職手当法第2条の2は、第一順位を配偶者(内縁を含む)、第二順位を子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹であって、職員の死亡当時、主としてその収入によって生計を維持していた者、第三順位を、前記の者のほか職員の死亡当時、主としてその収入によって生計を維持していた親族、第四順位を、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹であって第二順位に該当しない者としている。国家公務員共済組合法第43条、地方公務員等共済組合法第45条は、給付を受けるべき遺族の順位を、配偶者および子、父母、孫、祖父母の順としている。恩給法第73条は、配偶者、未成年の子、父母、成年の子、祖父母の順に遺族扶助料を支給すると定めている。兄弟姉妹は例外的に遺族となるが、孫は遺族とはならない。犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律第5条は、配偶者(内縁を含む)、被害者の収入によって生計を維持していた被害者の子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹、以上に該当しない被害者の子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹の順に遺族給付金を支給するとしている。また、厚生年金保険法第59条、国民年金法第52条の3、戦傷病者戦没者遺族等援護法第24条なども、それぞれ遺族の範囲を定めている。
[阿部泰隆]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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