日本大百科全書(ニッポニカ) 「動物検疫」の意味・わかりやすい解説
動物検疫
どうぶつけんえき
動物や畜産物の輸出入に伴って、伝染病が国内に侵入あるいは外国に伝播(でんぱ)しないようにするための検査をいう。日本では、農林水産省の動物検疫所が管轄する。明治時代以降、日本では家畜や畜産物を多く輸入してきたが、それに伴う伝染病の被害も大きく、1871年(明治4)以後、法律により輸出入検疫を行うこととなった。
現在では、家畜伝染病予防法(1951公布)のなかに、指定検疫物およびこれらの容器包装などで、輸出国の政府機関から発行され、かつその検疫の結果、家畜の伝染性疾病の病原体を広げるおそれがないことを確かめ、または信ずる旨を記載した検査証明書またはその写しを添付してあるものでなければ輸入してはならない、と規定されている。しかも、そのような指定検疫物は、省令で指定する港または飛行場以外の場所で輸入してはならないとされ、さらに個々の指定検疫物についても、それぞれ港または飛行場が規定されている。
輸入の際、家畜伝染病予防法に基づき検疫対象となる指定検疫物の概要は、以下のとおりである。
(1)偶蹄(ぐうてい)類(ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、キリン、スイギュウ、シカ、カモシカ、トナカイ、ラクダ、カバなど)、
(2)ウマ(ロバ、ラバ、シマウマ、ポニーなど)、
(3)ニワトリ、アヒル、シチメンチョウ、ウズラ、ダチョウ、キジ、ホロホロチョウ、ガチョウその他のカモ類、およびこれらの卵、
(4)イヌ、ウサギ、ミツバチ、
(5)前記動物の骨、肉、脂肪、血液、皮、毛、羽、角、蹄(ひづめ)、腱(けん)、臓器、生乳、精液および受精卵、血粉、肉骨粉、死体など、
(6)前記のものを原料とするソーセージ、ハム、ベーコン、
(7)家畜の伝染性疾病の病原体(農林水産大臣の許可のあるもの)、
また、指定地域から発送、経由された穀物のわら、および飼料用の乾草も指定検疫物である。
このほか、1999年(平成11)から狂犬病予防法(昭和25年法律第247号)に基づき、検疫対象動物として、ネコ、アライグマ、キツネ、スカンクが加えられた(平成11年農林水産省令第68号『犬等の輸出入検疫規則』)。また、エボラ出血熱、マールブルグ熱の感染予防のため、「感染症の予防及び感染症患者に対する医療に関する法律」(感染症予防・医療法、平成10年法律114号)の規定に基づき、2000年から、サルは、指定地域(アメリカ、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ガイアナ、スリナム)以外からの輸入は禁止となった。輸入する際には厚生労働大臣および農林水産大臣に規定の書類の提出と、空港にある動物検疫所などでエボラ出血熱およびマールブルグ熱の有無を確認する係留検査を行わなければならない。
指定検疫物をはじめ動物検疫を行う家畜防疫官は、動物検疫所または指定された港もしくは飛行場の指定された場所で、証明書などをチェックするほか、家畜の伝染性疾病の病原体を広げるおそれの有無を全部について検査するのが原則である。この場合、指定検疫物以外のものでも、汚染またはそのおそれがあれば、輸入後遅滞なく検査を行えるだけでなく、場合によってはこれらの検査を船舶または航空機内で輸入に先だって行うことができる。これは、防疫のためにはつねに必要以上に配慮がなされなくてはならないからである。検査の結果、指定検疫物が家畜の伝染性疾病の病原体を広げるおそれがないと認められるときは、すでにある輸出国の検査証明書などのほかに、省令の定めにより輸入検疫証明書を交付し、かつ指定検疫物に烙印(らくいん)、いれずみ、その他の標識をつけなくてはならない。
動物の伝染性疾病は、感染後一定の潜伏期があって発病するので、輸入検査のためには一定の期間係留することが定められている。偶蹄類は15日、ウマおよびニワトリ、アヒル、シチメンチョウ、ウズラ、ガチョウは10日、このほかの動物は1日、家畜の伝染性疾病にかかっている動物は回復後20日などと決められている。逆に輸出をしようとする際にも、一定の係留期間を置いて、輸入国政府が必要とする様式を整えた輸出検疫証明書交付を受けなくてはならない。
[本好茂一]