化学辞典 第2版 「化学イオン化法」の解説
化学イオン化法
カガクイオンカホウ
chemical ionization method
CH5+のような強いブレンステッド酸から分子へのプロトン移動のイオン-分子反応を利用して,直接の電子衝撃では得られない断片イオンの少ない分子の特性的な質量スペクトルを得る方法.質量分析計のイオン源に1 Torr(101 kPa)程度のメタンを導入し,50 eV(8.0×10-18 J)以上の電子エネルギーで電子衝撃を行うと,CH5+およびC2H5+が全イオン量の90% 以上となる.CH4は弱いブレンステッド塩基,CH5+は強いブレンステッド酸なので,このメタン中に 10-3 程度の有機化合物(ほとんどCH4より強い塩基である)を加えると,次のプロトン移動反応を起こす.
CH5+ + BH → BH2+ + CH4
BHは有機化合物を示す.また,C2H5+はCH5+より弱いブレンステッド酸なので,反応は次のようになる.
C2H5+ + BH → BH2+ + C2H4
C2H5+ + BH → B+ + C2H6
これらの反応はいずれも発熱反応なので,BH2+ や B+ はさらに解離をして断片イオンともなるが,直接の電子衝撃よりはるかに少ない.一般に電子衝撃で親イオンが見いだせず,定性,定量分析が困難な場合でも,この方法により分子量の決定や混合物の分析が可能になる.F.H. Fieldらは1966年にこの手段を化学イオン化法として発表した.イオン源を密閉形にし,101 kPa 程度までイオン源内圧力を増加させれば可能なので,質量分析計の大幅な改良は必要なく,簡便な方法といえる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報