出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
質量分析装置で得られるスペクトル。たとえばメタン分子CH4を質量分析計に導入すると,メタン分子から生成したイオンの質量スペクトルが得られる(図)。メタン分子がイオン化するとCH4⁺が生成し,その質量は(12×1)+(1×4)=16 amu(原子質量単位)となり,比質量(質量を電荷で割った値,m/z)が16のイオンとして記録される。このイオンは分子イオンと呼ばれる。さらにm/z=15,14,13,12等のイオンもピークとして現れる。これらはフラグメントイオンと呼ばれ,イオン化に伴う解離によって生成する。質量スペクトルは,質量分析装置を通して投影した分子の姿といえる。このことは,未知試料分子の質量スペクトルから,その分子構造の解明を行うことに利用される。図のスペクトルからピークの高さを読み取って,それぞれのm/zをもつイオンの相対強度を表のような形で表現することができる。これもメタンの質量スペクトルと呼ぶことができるが,このような形で表した場合,それぞれのイオンの相対強度をパターン係数という。基準にしたピークのパターン係数は100となる。基準ピークには,どのピークを選択することも可能であるが,通常は最大強度のピーク(ベースピーク)をとる。観測された質量スペクトルからの同定は,すでに長い間かけて収録された標準スペクトルデータを参照し,パターン係数を比較することにより行われる。最近では,コンピューターを用いて,質量スペクトルをマッチングさせて同定を行う検索システムが非常に発達し,的確にしかも敏速に行うことができるようになってきている。
執筆者:藤井 敏博
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原子や分子はそれぞれ固有の質量をもっている。これらをイオン化し、それらの質量を測定する方法を質量分析といい、このとき生成したイオンの質量mと電荷zの比m/zにしたがって分離し、その相対量を表やグラフの形で表したものを質量スペクトル(マススペクトル)という。正電荷のイオンに関するものを正イオンスペクトル、負電荷のものを負イオンスペクトルとよぶ。質量スペクトルの解析から、もとの物質の原子量、分子量と組成、分子の構造、同位体比などを知ることができ、無機物質や混合物中の微量成分の定性、定量も可能である。スペクトルを得る装置が質量分析計であり、イオン化源、イオンを質量順に分離する分析計、イオン量を検出する検出器、スペクトルに変換する機能などをもっている。
[高田健夫]
『田島進・飛田成史著『物質の質量から何がわかるか』(1991・裳華房)』▽『山本正夫他編『質量スペクトルデータ集』(1998・日本質量分析学会)』
マススペクトルともいう.質量分析器あるいは質量分析計で得られる質量と電荷の比(m/e)ごとに分離されたイオンのスペクトル.写真乾板上や記録紙上に記録される.また,機種によっては(飛行時間型質量分析計,四重極質量分析計)オシロスコープのブラウン管上に表示される.質量スペクトル中の一次イオンピークは,親ピーク,断片ピーク,多価イオンピーク,再配列イオンピーク,同位体ピーク,メタステーブルピークに分類される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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