化学辞典 第2版 「イオン-分子反応」の解説
イオン-分子反応
イオンブンシハンノウ
ion-molecule reaction
イオンと中性原子,あるいは分子との反応.P. Langevinが1905年に大気中に巨大なクラスターイオン(ランジュバンイオン)を見いだし,その生成について理論的解析を行ったのが最初で,J.J. Thomsonは1912年に陰極線装置で水素のイオン中に質量数3のイオンを見いだし,1916年,A.J. Dempsterによりこれが水素分子イオンと水素分子の反応で生成したイオン H3+ であることが明らかにされた.1950年代後半から,高空圏の化学,放射線化学,放電化学,炎のなかの現象などの素過程の解明のために広く研究されてきた.イオンの作用半径が大きいために,中性分子間の反応に比べて一般に反応速度が大きく,反応速度定数は~10-9 cm3 molecule-1 s-1 前後が多い.イオン衝撃法で見いだされている少数の例外を除き,イオン-分子反応は活性化エネルギーがほぼ0の発熱反応である.反応速度定数の理論的取り扱いは,G. GioumousisとD.P. Stevenson(1958年)が古典的なLangevinの軌道ポテンシャルから次の式を導いている.
ここで,eはイオンの電荷,αは中性分子の電気分極率,Mr は衝突対の換算質量である.この式で説明しうるイオン-分子反応もある.イオン-分子反応は大きく三つの型に分類しうる.
(1)電荷移動反応,
(2)原子,原子団,イオンの移動を伴う反応(二量体,三量体などを生成する重合反応も含む),
(3)負イオンの衝突電子脱離.
気相のイオン-分子反応は種々の形式の質量分析計で研究される.また,気相や液相において放射線化学反応の速度論によっても研究されている.質量分析計による研究では,一般分析と異なり,中性分子とイオンの衝突確率を増加するため,イオン源内試料圧を高めるか,イオンのイオン源内滞在時間を増加する必要がある.α線またはβ線を使用したイオン化法で1大気圧近くのイオン-分子反応も研究されている.また,1台の質量分析計で特定イオンを質量分離して取り出し,衝突室で中性分子と反応させ,生成二次イオンをさらに質量分析する二重質量分析計も使用されている.イオン-分子反応の研究で,生成二次イオンの前駆物質(precursor),反応次数,速度定数が求められる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報