日本大百科全書(ニッポニカ) 「北(方角)」の意味・わかりやすい解説
北(方角)
きた
north
方角の一つ。日の出の方角に向かって左手側にあたる。正確にいえば、方位主点(東西南北)の一つで、地軸の一端の方位を北、他端を南と定める。方位として十二支をあてる場合は子(ね)の方位となる。北はまた北風の略語として使われることもあるが、奄美(あまみ)大島や沖縄などの南西諸島では北はニシ、北風はマニシ、ニシカジとよばれ、西はイリ、西風はイリカジとよばれている。
江戸時代には江戸では吉原遊廓(ゆうかく)を、大坂では堂島を北といった。また釈迦(しゃか)入滅のときの臥(が)法が北枕(きたまくら)であったので、北枕は仏教徒の臨終の作法となり、死者をこのように扱ったので、北を忌むようになった。しかし部屋の北側は気温や明かりの変化が小さいので、静かに読書したり安眠をするには北向きがよく、古来、寺院などでは北窓に文机(ふづくえ)を置いたり、現在はアトリエなどで北から採光をしてあるものが少なくない。
[根本順吉]
語源については、冬至ののちふたたび太陽が戻ってくる(きたる)方角であるところからとする『和訓栞(わくんのしおり)』などの説、暗黒(きたなし)の義とする『日本釈名』などの説、日月の出没の方角たる東西を分ける(きた)意とする『東雅』などの諸説がある。北枕を忌む風習など、北にまつわる独特な習俗、名称は多い。公卿(くぎょう)、大名など身分の高い人の妻を北の方とよぶのは、彼女たちが寝殿造で正殿の北にある建物(北の対)に起居したことにより、北の政所(まんどころ)の語が摂政(せっしょう)・関白など貴人の正妻をいうのもこれによっている。
[宇田敏彦]