十二タングステン酸塩(読み)ジュウニタングステンサンエン

化学辞典 第2版 「十二タングステン酸塩」の解説

十二タングステン酸(6-)塩
ジュウニタングステンサンエン
dodecatungstate(6-)

M6[H2W12O40]・nH2OまたはM2O・4WO3nH2Oで示される塩.メタタングステン酸塩ともいう.IUPAC名はジヒドロキソオクタトリアコンタオキシド十二タングステン酸(6-)塩.アルカリ金属塩は,オルトまたはパラタングステン酸のアルカリ金属塩水溶液に,タングステン酸ゲル(pH 約4)を加えて煮沸すると得られる.遊離酸の固体H6[H2W12O40]・5H2O[CAS 12299-86-4](立方晶系)は,パラタングステン酸塩水溶液を酸性にすると得られる.アルカリ土類金属,希土類,遷移金属塩もそれぞれの炭酸塩,硫酸塩とメタタングステン酸の反応で得られる.[H2W12O40]6- は,正八面体型の3個のWO6が稜共有で三角形に結合したもの4個が,正四面体型に組み合わさった構造で,2個のHは,内部の空洞に位置する.この構造は,Wなどのヘテロポリ酸ケギン構造の中心の正四面体型MO4を抜きとった形である.結晶は,M6[H2W12O40]・23H2O(M = K,NH4)は正方晶系,Ba3[H2W12O40]・26H2Oは斜方晶系である.なお,水和水数が異なった塩もある.アルカリ金属およびNH4塩[CAS 12028-48-7]は無色の結晶.水に易溶.加熱すると水和水(の一部)を失う.アルカリ金属塩の水溶液はパラ塩より酸性で pH 約4.


十二タングステン酸(10-)塩
ジュウニタングステンサンエン
dodecatungstate(10-)

M10[H2W12O42]・nH2Oまたは5M2O・12WO3nH2Oで示されるイソポリ酸塩で,パラタングステン酸塩ともいう.IUPAC名はジヒドロキソテトラコンタオキシド十二タングステン酸(10-)塩.K塩,Na塩は,M2WO4(慣用名,オルト酸塩)よりやや溶解度が低いため,オルト酸塩の水溶液に,この塩の生成に適した酸性度になるまでHClなどの酸を加えれば,各金属塩が結晶として析出する.K塩は,K2WO4水溶液にWO3を加えて加熱すると得られ,NH4塩は,NH3水溶液にWO3を溶かし,濃縮すると得られる.(NH4)10[H2W12O42]・10H2O[CAS 12028-06-7]は,斜方晶系で,[H2W12O42]10- は正八面体型の3個のWO6が,図(a)および(b)のように稜共有でつながったもの各2個ずつが,交互に結合した図(c)の構造で,2個のHは中央の空洞に位置している.W-O1.70~2.32 Å(平均1.90 Å),O-O2.49~2.97 Å.Na塩(二十水和物,三斜晶系),Mg塩(三十八水和物,三斜晶系),K塩(十水和物,斜方晶系)なども同様の構造をもつ.アルカリ金属塩は水に可溶,水溶液はほとんど中性で,オルト塩より酸性,メタ塩(メタタングステン酸塩)よりはアルカリ性である.結晶は空気中で安定である.加熱すると脱水が起こる.[CAS 51682-69-0:十二タングステン酸(10-)イオン]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の十二タングステン酸塩の言及

【パラタングステン酸塩】より

タングステン酸塩の一つ。十二タングステン酸塩dodecatungstateMI10[W12O46H10]・nH2O(12WO3・5MI2O・nH2O)の通称。ポリタングステン酸塩のうち最も得られやすく,分析試薬などで通常タングステン酸塩と呼ばれているのはほとんどこれである。…

※「十二タングステン酸塩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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