単純性腸潰瘍または腸管Behçet病

内科学 第10版 の解説

単純性腸潰瘍または腸管Behçet病(非特異性腸管潰瘍)

(2)単純性腸潰瘍または腸管Behçet病(simple ulcer of the intestine,intestinal Behçet’s disease)
概念・病理
 Behçet病は,トルコの医師により記載された原因不明の全身の炎症性疾患で,地中海地方と東洋人に多発する.主症状として口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍,皮膚症状,眼症状と外陰部潰瘍などをきたし,副症状として,関節炎,副睾丸炎,消化器症状,血管病変,中枢神経病変を伴う難治性疾患である(International Study Group for Behçet’s disease,1990).消化管にも難治性の潰瘍性病変を生じる場合,特殊型として腸管Behçet病とよぶ.消化管のどの部位にも単発あるいは多発する病変を生じうるが,回腸末端から回盲部にみられる類円形打ち抜き様の深い潰瘍が典型像である(図8-5-13,8-5-14).定型的な潰瘍が存在し,Behçet病の診断基準を満たさない症例(不全型と疑いが70%以上を占める)は単純性潰瘍と呼称する場合が多い.単純性潰瘍は,原因が不明であり,Behçet病との異同が問題である.潰瘍形態がBehçet病の潰瘍と共通し,ときにBehçet病への進展があるため,同一疾患あるいは一亜型と考えるものが多い.腹痛,下痢,や皮膚症状などを自覚し,穿孔や大出血をきたすこともある.ときにCrohn病悪性リンパ腫との鑑別を要することがある.(【⇨8-5-4)】,【⇨8-4-10)】)
臨床症状
 本症の臨床症状は,特異なものが多い.20~40歳の青壮年の発症が80%以上であり男性に好発する.初発症状は腹痛と下痢,下血が多く,腹部疝痛,発熱,腹部膨満感,悪心など,局部的炎症や閉塞症状を伴う.ときに回盲弁部潰瘍の穿孔あるいは炎症性腫瘤形成をきたすこともある.
検査成績
 検査所見は,炎症反応,白血球増加,貧血,低蛋白血症などが主体である.さらに,皮膚針反応とHLA-B51の検索はときに有用である.X線検査と内視鏡所見では,回盲弁部に単発する類円形の辺縁鋭利な潰瘍が特徴的である.ときに,小腸やその他の腸管に病変が多発する.再発時には,吻合部に同様の潰瘍がみられる.生検組織所見ならび切除標本組織所見では,特異的な所見はなく,非特異性的炎症所見のみである.逆に肉眼所見とこれらの組織所見は診断確定的と考えられている.
 病理所見の主体は,慢性消化性潰瘍類似のUl-ⅡからUl-Ⅳの潰瘍で,粘膜の壊死,粘膜下組織の線維化,炎症細胞浸潤,軽度の浮腫,などの非特異性炎症が潰瘍周辺に限局して認められる.
治療
 本症の治療指針は確定しておらず,明らかな有効性が証明された薬剤はない.活動期には,まず薬物療法を行う.サラゾスルファピリジン,メサラジンあるいは副腎皮質ステロイド薬が多く用いられる.保存的治療として,完全静脈栄養や成分栄養剤による栄養療法を用いる.治療に反応しても,再燃をくり返すことが多い.種々の免疫統御療法(インフリキシマブ,シクロスポリン白血球除去療法)も試みられている.内科治療が無効な合併症(穿孔,腹膜炎,狭窄,大出血など)に対しては手術を選択する.しかし,術後の再発率は高い.[松井敏幸]
■文献
International Study Group for Behcet’s disease: Criteria for diagnosis of Behcet’s disease. Lancet, 335: 1078-1080, 1990.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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