参入障壁(読み)さんにゅうしょうへき(その他表記)barriers to entry

改訂新版 世界大百科事典 「参入障壁」の意味・わかりやすい解説

参入障壁 (さんにゅうしょうへき)
barriers to entry

ある産業に新たに企業が設備を新設して進出参入)しようとするとき,この企業はすでにその産業で営業している企業に比して,さまざまな理由で不利となる場合がある。このような,既存企業と比べた新規参入企業の不利益を生みだす要因を,参入障壁という(産業に参入障壁がない状態を自由参入free entryという)。参入障壁の高い産業では,既存企業は新規参入を招くことなく超過利潤を享受することができる。

 参入障壁を構成する要因としては,(1)費用格差,(2)〈規模の経済〉,(3)製品差別化,の3点があげられる。(1)費用格差による参入障壁とは,優れた技術原材料鉱山油田支配など),熟練労働力などが既存企業に支配されていることから生ずる,参入企業の被る費用上の劣位性を意味する。(2)規模経済性による参入障壁は,大量生産の利益が著しく,需要の弾力性が小さい産業で高くなる。すなわち,大量生産によるコストダウンを図るためには大きな生産量を実現しなければならないが,そうすると供給が増加して価格が低下し,企業の採算がとれなくなる。これを避けて小規模な生産を行うと,大量生産の利益を享受できないため費用が高くなって競争上不利となり,いずれの道を選んでも参入に成功する可能性は小さくなる。(3)製品差別化による参入障壁とは,参入企業はこれから新たに事業を開始するのであるから,すでに買手に知られている製品を販売している既存企業と比べ,自己の製品を知ってもらうため広告費や宣伝費を余計にかけなければならず,不利となることを指す。
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百科事典マイペディア 「参入障壁」の意味・わかりやすい解説

参入障壁【さんにゅうしょうへき】

新規企業が特定の産業や製品市場に進出するときに受ける相対的な困難の要因。経営において多角化や新製品開発の戦略を決定する際,一つの戦略基準となる。参入障壁の生じる理由は,(1)経済の集中による寡占化が行われ,最低必要規模が大きい,(2)新規企業の絶対的生産費用が既存企業よりも高い,(3)製品差別化が強く,新規企業は広告や販売促進への支出を多く必要とすることなどが挙げられる。最近では海外企業が日本に進出する時に,法律や習慣がその妨げになる場合もこの言葉を使う。
→関連項目規模の経済産業組織論ベイン

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マーケティング用語集 「参入障壁」の解説

参入障壁

新たに市場に参入する場合に障害となる要因のこと。各種許認可制度や流通や生産に関する独自の組織文化など。
近年ではビジネスモデル特許などによる新たな参入障壁の形成も見られます。革新的な技術などにより、競合が追随できない状態を構築することができれば、市場導入期における絶対的優位を確立することが可能となります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「参入障壁」の意味・わかりやすい解説

参入障壁
さんにゅうしょうへき
barriers to entry

新たに企業が特定産業で生産,販売を開始するのをはばもうとするものの総称。まったく新しい企業が登場する場合もあれば,他の産業分野の企業が異分野に進出して新たな競争者となる場合もある。規模の経済性によるもの,費用の絶対的優位によるもの,製品差別化によるもの,などがある。

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栄養・生化学辞典 「参入障壁」の解説

参入障壁

 新規に企業が市場に参入しようとするときの難易度.

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世界大百科事典(旧版)内の参入障壁の言及

【独占】より

…合併によって誕生した独占は,市場で優劣の判定を経たものでないので,経済厚生の点からは問題が多い。 潜在的競争者の競争圧力から既存企業を隔離する参入障壁も,独占を形成・維持する重要な要因である。市場規模にくらべ効率的工場の規模が大きすぎ,参入後の価格暴落が必至であったり,効率的規模の工場の建設資金が膨大で,潜在的参入者の資金調達能力を超える場合,すなわち規模の経済性が著しい場合は,既存企業は潜在的参入の脅威から守られ,独占利潤を享受しつづける。…

※「参入障壁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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