躁鬱病(読み)ソウウツビョウ(英語表記)manic-depressive psychosis

デジタル大辞泉 「躁鬱病」の意味・読み・例文・類語

そううつ‐びょう〔サウウツビヤウ〕【×躁鬱病】

双極性障害

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精選版 日本国語大辞典 「躁鬱病」の意味・読み・例文・類語

そううつ‐びょうサウウツビャウ【躁鬱病】

  1. 〘 名詞 〙 爽快な感情を主調とする躁状態と、悲哀や不安の感情を主調とする鬱状態を、周期的に繰り返す精神病。躁と鬱を交互に繰り返すものとどちらか一方を繰り返すものとがある。躁鬱症。
    1. [初出の実例]「躁鬱病(ソウウツビョウ)をこの世からなくしてしまえば」(出典:夜と霧の隅で(1960)〈北杜夫〉二)

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改訂新版 世界大百科事典 「躁鬱病」の意味・わかりやすい解説

躁うつ病 (そううつびょう)
manic-depressive psychosis

二大内因性精神病の一つ。躁うつ(鬱)病が統合失調症とともに精神病の一つとして医学的に位置づけられたのは,19世紀末ドイツの精神医学者クレペリンによってであった。彼はフランスの学者ファルレJ.P.Falretの循環精神病,バイヤルジェJ.Baillargerの重複型精神病の後を受け,〈躁〉と〈うつ〉との気分の周期的変動を繰り返すが人格崩壊を起こさない精神病を躁うつ病と呼んだ。躁うつ病には,躁とうつとの両病相を繰り返す循環病,躁病相のみ,あるいはうつ病相のみを繰り返す周期性躁病,周期性うつ病,1回だけの病相を示す単相躁病,単相うつ病などが含められている。これらのすべてを躁うつ病という一つの病気として考えることには今日異論が多い。しかし臨床の実際においては周期性うつ病あるいは単相うつ病が圧倒的に多数を占める。躁うつ病とは一口でいえば生命のリズムの障害であり,躁病においては生命の流れが飛躍し,生命的感情が高揚する状態であり,うつ病ではこれに反して生命の流れが停滞し,生命の感情が低下している状態である。

うつ病の症状をまとめると,抑うつ気分,気分の日内変動(例えば朝のうちことに気分がすぐれず,夕方になるとやや良くなる),悲哀,絶望感,不安,焦燥,苦悶感,精神活動の抑制,自殺観念,自殺企図,心気妄想(重い病気にかかったと信じこむ),罪業妄想(重大な罪を犯したと信じこむ)などの精神症状と,全身の倦怠感,不調感,頭部不快感,睡眠障害,食欲不振,便秘,体重減少,インポテンツ月経不順などの自律神経・内分泌障害を中心とする身体症状となる。これらの症状の組合せによって個人的うつ病の病像が彩られる。臨床的には,(1)抑制・無感動型,(2)抑制・不安型,(3)興奮・不安型,(4)精神運動正常型,(5)身体・自律症状の5型に分けられる(キールホルツP.Kielholzによる)。

 躁病の精神症状をまとめると,病的な爽快気分があり,自我感情が高揚し,自信過剰で尊大となり,無遠慮で節度を欠き,誇大妄想を伴う。多弁多動で,観念奔逸(次々と考えがわき出すこと)や,行動促迫(何かをせずにはいられないこと)が見られる。これらの症状の裏面には不安,焦燥,易刺激性などが潜んでいることもある。身体的には病的な健康感があり,睡眠は短時間で足り,性欲が亢進する。激しい興奮が続き,声もかすれ,身体的に消粍し,食欲減退・体重減少が起こる。特に不機嫌で怒りっぽく,攻撃的なタイプは憤怒躁病,精神運動性興奮が強く,錯乱状態を呈するタイプはせん妄躁病といわれる。

一般人口における躁うつ病の発病頻度は,内外の調査によれば日本と外国とに大差はない。躁うつ病を,うつ病,循環病(躁うつ両相を呈するもの),躁病に分けると,うつ病だけを呈するタイプが全体の約半数を占め,躁病は少ない。最近,日本ではうつ病の増加傾向,躁病の減少傾向がみられるが,これは社会変動と深い関係があると推察される。男女比は女性が男性のほぼ2倍の数値を示している。

原因については生化学,内分泌学,神経生理学的な側面から多くの研究が行われているが,現在なお,どのような原因で始まり,どのような機制によって症状が展開していくかは明らかでない。躁うつ病は感情病であり,そのまとまりのある症状群,周期的経過などから,脳の感情中枢の機能失調によるものと想定される。最近の生理学的研究の成果によれば,脳の視床下部や辺縁系といわれる部分の機能に関係のあるアミン代謝の異常によって躁うつ病が起こり,治療効果のある薬物はこれを正常化すると推論される。

(1)遺伝 双生児研究によると,遺伝子型の等しい一卵性の双子と遺伝的に同胞程度の違いのある二卵性の双子の一致率(双子の2人とも躁うつ病にかかる率)には大きな違いがあり(一卵性では33~93%,二卵性では0~38%),躁うつ病全体の病因として遺伝の働きが大きいことは明らかである。しかし一卵性の双子の場合にも不一致例がかなりあることは,環境も病因として無視できない役割を演じていることの証左である。今日では躁うつ病の異種性が注目され,例えばうつ病に関しては,躁とうつの両面相をもつ循環病性うつ病(双極型)とうつ病相のみを示す周期性うつ病(単極型)とは,家系研究によると,循環病性うつ病の方が遺伝の働きが強く,遺伝的に分離させるべきだとの主張もある。

(2)体格,性格,発病状況 クレッチマーの研究によれば,躁うつ病者は肥満型に多く,細長型や闘士型には少ない。性格的には社交的,善良,親切,親しみやすいという共通した特徴のある循環気質に属する。このようなクレッチマーの考え方に対して,1930年ころに下田光造が躁うつ病の病前性格として執着性格を提唱した。執着性格の基礎には一度起こった感情が長く持続し,かつ増強するという感情の経過の異常があることに着目し,この異常にもとづく性格特徴として仕事熱心,凝り性,徹底的,正直,几帳面,強い正義感,ごまかしやずぼらができないなどをあげている。また,61年にテレンバハH.Tellenbachはうつ病に親和性のある人間類型をメランコリー型とよび,その本質を秩序に従うこと,つまり几帳面さに求めている。彼のメランコリー型は下田の執着性格と驚くほどよく似ている。メランコリー型の人はいつも秩序の中にあり,秩序と密着し一体化して生きようとする。この限りにおいては彼らは安全であるが,こうした生き方が脅かされるような事態が起こると発病の危機が迫る。これに対して躁病と親和性を有する人間類型として提唱されたテレンバハのマニー型は秩序への反逆傾向があり,外的な強制や圧迫に反抗する。したがって生命の流れの停滞を起こさせる圧迫が加わるような事態になると発病の危機が迫る。下田の執着性格,テレンバハのメランコリー型・マニー型の性格特徴は構造化された社会的人格とみなすことができ,生来的に感情の統合機能の不十分な人が社会生活に適応するための防衛機制と考えることもできる。

 うつ病を誘発しやすい発病状況として,女性の場合には転居,出産,配偶者の死亡,子どもの結婚,男性の場合には転職,転勤,地位の昇進,引退などがあり,両性に共通するものとしては,種々の身体疾患,事故,外傷,近親者の死亡などがあげられる。つまり,いわゆる人生の危機,転機が発病につながることが多い。昔からよく知られているのは転居うつ病で,これは圧倒的に女性に多い。男性にとってこれに相当するのが転勤うつ病である。躁病を誘発しやすい状況としては,近親者の死亡,経済的緊迫,転居,転勤,選挙,祭事,争い,事故,外傷,身体疾患がある。マニー型の人は前述のように社会秩序や権威に反逆し,反体制的な秩序や生活空間を創造し支配しようとする傾向があるので,外的な圧迫,強制や既成の秩序,権威からの解放が発病の危機を招きやすいと想定される。これに対してクレッチマーの循環気質を基礎性格とする循環病は状況因の明らかでない場合も多く,むしろ季節や天候などの気象的条件や月経・分娩などの内分泌変動,身体的過労などの生物学的条件によって発病するような印象を受ける。最初の発病には状況因が認められても,再発を繰り返しているうちにほとんど自動的に発病するようになる。

うつ病の治療には従来電気ショック療法や持続睡眠療法が行われてきたが,1957年スイスのクーンR.Kuhnによってイミプラミンの臨床効果が報告されて以来,イミプラミンをはじめとする各種の抗うつ薬が治療に用いられるようになり,現在ではフルボキサミン,パロキセチン,ミルナシプランなどが薬物治療の主役になっている。各種の抗うつ薬の働きは,気分高揚,意欲亢進,不安鎮静作用に違いがあるので,症状に応じて適宜選択して使用する。不安や焦燥感に対しては精神安定薬,睡眠障害に対しては睡眠薬を併用する。このほか西ドイツでは断眠法が行われている。薬物療法が進歩したために,かつては入院治療が中心であったうつ病の治療は,今日では外来治療が十分可能になった。躁病の治療にはうつ病と同じくかつては電気ショック療法や持続睡眠療法が行われたが,現在では薬物療法が中心である。フェノチアジン系,ブチロフェノン系の薬物のほか,近年はリスペリドン,クエチアピン,オランザピンなどの抗精神病薬を用いる。服薬を拒否したり興奮の激しいときには速効性の注射を行う。最近,抗躁薬として炭酸リチウムカルバマゼピン,バルブル酸ナトリウムなどが用いられている。これらの薬物治療を円滑に導入し,十分な効果をあげるためには精神療法が不可欠であることはいうまでもない。
統合失調症 →メランコリー
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1951年に結核治療薬としてイソニアジド(INAH)やその誘導体イプロニ(ナイ)アジドが使われはじめると,副作用として浮かれ気分や躁状態を起こすことがわかり,翌年にはイプロニアジドがモノアミン酸化酵素を抑制することが知られた。この酵素抑制作用が抗うつ作用と関係があると考えられ,64年くらいまでに多くのモノアミン酸化酵素抑制薬が抗うつ薬として登場したが,心因性うつ病にしか効かないことと肝障害を起こすことから利用されなくなった。他方,鎮静薬として作られたイミプラミン(商品名イミドール,トフラニール)がうつ状態を改善する力をもっていることがクーンによって見いだされ,以後その誘導体であるデスメチルイミプラミン(商品名ペルトフラン),アミトリプチリン(商品名アデプレス,ラントロン,トリプタノール),ノルトリプチリン(商品名ノリトレン),プロトリプチリンドキセピンなどのいわゆる三環系抗うつ薬が続々と登場した。モノアミン酸化酵素抑制薬は脳内の神経刺激伝達物質であるセロトニンやカテコールアミンなどの活性を高める。三環系抗うつ薬は神経のつぎめ(シナプス)で遊離されるカテコールアミンの再吸収を抑制する。これらの薬理作用が抗うつ効果を現すものと考えられている。脳内でノルエピネフリンとドーパミンが減少するとうつ状態が起こるとする〈アミン仮説〉に根拠を与えるこれらの事実は,精神障害が脳の化学的変化によって起こるとする説を大きく進歩させた。三環系抗うつ薬は発効までに2週間ほどかかるが,内因性うつ病の約70%に有効である。口渇,発汗,視力障害,心臓障害などの一過性副作用がある。症状が改善された後も数ヵ月の長期与薬を原則とし,急に服薬をやめると不安や興奮が起きることがある。また誤って統合失調症に与えると症状を悪化させることが多い。

 近年の抗うつ薬の分類は,(1)三環系抗うつ薬(古典的抗うつ薬)のアモキサピン(商品名アモキサン),塩酸クロミプラミン(商品名アナフラニール),塩酸イミプラミン(商品名トフラニール)など,(2)四環系抗うつ薬の塩酸マプロチリン(商品名ルジオミール),塩酸ミアンセリン(商品名テトラミド),マレイン酸セチプチリン(商品名テシプール),(3)SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)のフルボキサミン(商品名ルボックス,デプロメール),パロキセチン(商品名パキシル)など,(4)SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)のミルナシプラン(商品名トレドミン)など,(5)その他として塩酸トラゾドン(商品名レスリン),スルピリド(商品名ドグマチール,アビリット)など,に分けられる。

 このうちアモキサピンと塩酸マプロチリンなどには即効性があり,SSRIは製薬会社の宣伝により性格改善薬だという説さえ現れているが,自殺行動を増やす,うつ状態を悪化させるといった副作用があることも明らかになってきている。

 またいずれの抗うつ薬にも,副作用として便秘,排尿障害,喉の渇き,吐き気,眠気などが起きることがある。
向精神薬
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食の医学館 「躁鬱病」の解説

そううつびょう【躁うつ病(双極性障害)】

《どんな病気か?》


〈脳内の神経伝達物質が正常に働かなくなって起こる〉
 躁(そう)うつ病とは、感情や意欲が極端に落ち込んだり(うつ病相)、上昇したり(躁病相)する状態をくり返す病気で、最近では「双極性障害」「気分障害」と呼ばれています。このなかで、うつ病相だけをくり返すタイプをうつ病といいます。
 くわしい原因はまだ解明されていませんが、脳細胞の活動に関係しているセロトニンやノルエピネフリンなどの伝達物質の働きに障害が起こることによると考えられており、遺伝的素因や性格、環境の変化などが相互に作用して発病します。
 うつ状態では、気持ちが沈んで、何をするのもおっくうになります。また、頭痛、便秘や下痢(げり)、肩こり、動悸(どうき)など、体の症状もともないます。躁状態では、何事にも意欲的で活動しすぎる一方、イライラしやすく、睡眠時間が短くても平気になり、食欲も性欲も亢進(こうしん)します。

《関連する食品》


〈うつ病にはビタミンB群を含む食品が有効〉
○栄養成分としての働きから
 気分のコントロールに重要な役割をはたしているセロトニンやノルエピネフリン、ドーパミンなどは、体の中で、食べものの成分からつくられます。セロトニンの原料となるのがトリプトファン、ノルエピネフリンやドーパミンの原料となるのがフェニールアラニンで、どちらもアミノ酸の一種です。そして、これらの成分からセロトニン、ノルエピネフリンが合成されるにはビタミンB群が必要です。
 トリプトファン、フェニールアラニン、ビタミンB群を含む食品をとることで、セロトニンやノルエピネフリンの不足が補われ、脳内の神経刺激の伝達がスムーズになって、躁うつ病の症状の改善につながります。
 トリプトファンは牛乳やチーズ、アーモンド、バナナなどに、フェニールアラニンは肉類、魚介類、たまご、ダイズなどに、ビタミンB群はマグロ、サンマ、サケやレバーなどに多く含まれています。
 また、うつ状態は、ビタミンB群の欠乏によっても起こります。
 アミノ酸の一種であるメチオニンには、抗うつ作用があると考えられています。たまごや魚、肉類に含まれており、これらを摂取することで、うつ状態の改善が期待できます。
 食べすぎや飲酒・タバコの吸いすぎは、セロトニン受容体の働きを低下させ、うつ状態を悪化させることがあるので、注意しましょう。
○漢方的な働きから
 漢方では、ユリ根やクチナシの実には、精神を安定させる働きがあるとされています。
○注意すべきこと
 抗うつ剤の多くは、アルコール飲料と併用すると血圧低下、動悸、不眠などの副作用を増強することがあります。服用中は禁酒の注意をまもりましょう。
 また、チーズと食べ合わせると、血圧が高くなることがあります。

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百科事典マイペディア 「躁鬱病」の意味・わかりやすい解説

躁鬱病【そううつびょう】

精神病の一つ。循環病とも。気分が憂鬱な減動状態(鬱状態)と爽快(そうかい)な増動状態(躁状態)とが,単独に,あるいは交代して周期的に現れる。病的期間とその中間期である正常な期間は不定。患者には循環気質の持主が多い。治療は薬物療法と精神療法が主体となる。→鬱病躁病
→関連項目気分障害クレペリンパラノイア不眠症

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栄養・生化学辞典 「躁鬱病」の解説

躁鬱病

 周期的に感情障害を繰り返す精神疾患.

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世界大百科事典(旧版)内の躁鬱病の言及

【執着性格】より

…躁鬱(そううつ)病の病前性格として下田光造が提唱した性格。この性格の基礎には一度起こった感情が長く持続するという感情の経過の異状がある。…

※「躁鬱病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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