認知行動療法(読み)にんちこうどうりょうほう(英語表記)cognitive behavior therapy

最新 心理学事典「認知行動療法」の解説

にんちこうどうりょうほう
認知行動療法
cognitive behavior therapy

行動科学的原理の応用により,生活の困難につながるふるまいや受け止め方,感情や衝動のコントロールに一貫した変容をもたらすことをめざす臨床心理学的技術の体系。「人のふるまいや受け止め方が環境とのやりとりの中で変容していくメカニズム」の発動を支援する心理的ツールの集積である。

 1950年代に複数の実践家・研究者により,学習心理学(行動主義心理学)の応用として開発された異常行動変容技法である行動療法behavior therapyがその起源である。1970年代ごろにはすでに,バンデューラBandura,A.を代表とする彼らによる観察や代理強化を取りあげた学習理論である社会的学習理論social learning theory,いずれも思考や信念という媒介変数の修正を中心にすえた心理療法であるベックBeck,A.T.の創始による認知療法cognitive therapyやエリスEllis,A.の創始による論理情動行動療法rational emotive behavioral therapy(REBT)などとの統合が進み,認知行動療法という名称が誕生した。今日では,発展と普及が最も著しい心理療法の代表格とされるが,その背景にはエビデンスベイスドな心理療法evidence based psychotherapyに対する社会的なニーズの高まりがあった。認知行動療法は,いくつかの精神障害に対し「第一選択とされるべき」心理的介入として,精神医療の専門家マニュアル上で推奨されている。

 認知行動療法を最も狭い意味で用いると,ベックやエリスの,思考や信念をより合理的な内容へと修正していく認知的再体制化cognitive restructuringを中心としたアプローチの別称ということになる。他方,認知行動療法をより広義でとらえた場合,従来の行動療法と,スキナーSkinner,B.F.の業績を基礎にした行動変容の体系である応用行動分析学applied behavior analysisをベースに,認知的理論や技法をより積極的に取り入れる臨床心理学的アプローチが融合したもの,ということになる。

 ベックおよびエリスの手法と比べた場合,それらよりもやや長い歴史のある行動療法には,主に次の二つの特徴がある。第1は,行動療法はあくまで学習理論(条件づけ理論)の応用技術であり,それゆえに理論的な整合性,用語の定義に厳密さと一貫性がより高いレベルで保たれていること,第2には,行動療法の場合,心理療法としての主たる目標がつねに認知(受け止め方や思考,信念)変数に限定されることなく,認知も含めた行動すべて(生理的反応や感情も)が環境との間で望ましい相互作用を回復することにおかれること,である。

 行動療法では認知的変数が扱われない,という理解は誤りである。イメージや思考,評価といったクライエントの反応は,他者からの直接観察が不可能な認知活動である内潜行動covert behavior,あるいは私的事象private eventとして,自発する習慣的な反応として,行動の一つの形態とされる。とりわけ2000年代以降は,行動療法において重要でかつ独自の学問体系をなす行動分析学の応用による応用行動分析学applied behavior analysisの再評価が進んできている点も見逃せない。このほか,境界性パーソナリティ障害など治療上困難の多い障害への対応として評価の高い,密度の濃い支援体制の中で前向きな考え方を引き出す介入であるリネハンLinehan,M.の弁証法的行動療法dialectical behavior therapy(DBT),あるいはヘイズHayes,S.C.の行動や思考の内容でなくそれらのクライエント本人への機能の変容を強調するアクセプタンス・コミットメント療法(後述)などへの展開もあり,認知行動療法は今もなお,進化と発展の過程にある。

【心理アセスメントの基礎①:機能分析】 機能分析functional analysisは,認知行動療法における心理アセスメントの支柱の一つである。ここでは,ある状況や刺激のもとで繰り返し自発する行動とその行動が環境にもたらす効果を三項随伴性three-term contingencyでとらえる(図1)。

 ここで機能functionとは,行動が行動を生起させた主体から見た内部環境(気分や身体感覚など)あるいは外部環境(他人,物理的状況)に対しもたらした変化(効果・役割・意味)を指す。そして,ある行動の生起とそれがもたらす環境変化の機能により,一つの循環の形成が認められたとき,その行動は強化reinforcementされている,と表現される。強化は,反応を生起させる主体にとって快である刺激が行動生起に随伴して生じる好子出現(快出現)か,反応を生起させる主体にとって不快である刺激が行動生起に随伴して消失する嫌子消失(不快消失)環境変化のパターンのいずれかである。前者が好子出現の強化(正の強化positive reinforcement)であり,後者が不快消失の強化(負の強化negative reinforcement)である。

【心理アセスメントの基礎②:衝動回避モデル】 恐怖や嫌悪など,不快な感情がある徴候によって引き起こされかけると,ほぼ同時にその不快さがピークに達するのを避けるため,個人においてパターン化された行動(回避行動)を試みることになる。本来中性的であった内外環境における徴候が一定以上の不快さを伴う感覚をもたらすようになる学習過程は,レスポンデント条件づけで説明される。さらに,引き起こされた不快な感覚や感情や衝動を鎮静させる効果によって強化される(負の強化)過程は,オペラント条件づけで説明される。この二つの学習過程で記述される回避学習は,多くの不適応行動を説明する(図2)。

 なお,回避行動には,能動的回避active avoidanceと受動的回避passive avoidanceがある。前者は,積極的にある決まったアクション(儀式的行為)を取ることで回避衝動を鎮静される場合であり,後者は,アクションを行なわない,つまり一定期間の制止的反応によって回避衝動を鎮静させる場合を指す。これと似た衝動低減のモデルは,不安障害のほか,接近的衝動制御の困難を伴う依存的問題行動の説明にも応用可能である。

【心理アセスメントの基礎③:認知モデル】 認知モデルcognitive modelは,抑うつや不安,怒りといった感情の調整困難が認められる事例にとって有効な心理アセスメント単位である。ある出来事により感情が引き起こされたと自覚した場合,その間には,意図なくして反射的に浮かぶ自動思考automatic thoughtないし妥当性に欠けた思い込みである非合理な信念irrational beliefが媒介していると考えられる。(図3)。

 論理情動行動療法によれば,人が抱きやすい非合理性として,「自分はすべての人から愛されなければならない(好かれたい,良く思われたい)」,「自分のなすことはすべてうまくいかねばならない(有能でありたい,あらねばならない)」などが基本であるとされる。これらは,個人ごとの認知の歪みを説明するものと仮定され,スキーマschema(中核信念core beliefともいう)とよばれる。

【認知行動療法介入に共通する特徴】 認知行動療法における心理教育では,二つのねらいがある。一つは,症状や問題行動そのものを認知・行動論的に説明するものであり,もう一つは,それら症状や問題行動を認知行動療法ではどのようにとらえ,そしてどのように扱おうとしているのかについて,クライエントの理解を促す解説である。このような心理教育重視の姿勢により,認知行動療法を受けるクライエントは,なぜそのようなセラピー作業が必要になるのかを納得したうえで取り組むことができる。

 このほか,認知行動療法の特徴として,障害や困難,苦痛の程度を数値で評価し,効果を確認しながら進めていく点を挙げることができる。また,改善までの効率化の工夫が多い。多くの場合,セッションとセッションの間にはホームワークが課される。

【環境調整による制御】 ある状況や刺激のもとでの習慣的ふるまいの大半は,なんらかの手がかり(きっかけ,引き金)により引き起こされている。それらの状況や刺激を調整することで,ある習慣的ふるまいの生起頻度を,調整させることが可能となる。これを刺激性統制stimulus controlとよぶ。ある状況下での特定の行動の生起頻度を高めるため,手がかりや具体的支援(信号やサイン,掲示,ことばかけあるいは身体的促し)を提供する介入はプロンプティングpromptingとよばれる。段階的にプロンプティングの刺激価を弱め(目立たなくし),ついにはクライエント本人が自発的にふるまいを表出することができるような手続きがフェイディングfadingである。

 このほか,行動について,クライエントとの契約により形成していく行動契約法behavioral contract,活動のスケジュールを具体的に手がかり刺激として用意し,活動性を高めるなどの効果をねらう方法である活動スケジュール法activity schedulingなどがある。

【随伴性の制御による行動形成】 すでに本人のレパートリーの中にある行動を,特定の場面でより生起しやすくする行動変容と,レパートリーにない,あるいはきわめて生起確率の低い行動を段階的に形成化shapingしていく場合がある。

 強化として随伴させる好子positive reinforcer(正の強化子とも)には,物,他者のかかわり(賞賛なども含め),快となる活動への参加などがある。物の場合だと飽和しやすいため,後に好きな刺激(好きな品物,活動の機会や時間など)と交換可能となるシールやカードやポイントなどを好子(条件性好子positive conditioned reinforcement)として用いる方法が便利である。この工夫はトークンエコノミーtoken economy,与えられる好子はトークンtoken,後に交換される好子(本来的に快をもたらす好子)はバックアップ好子backup reinforcerとよばれる。

 レパートリー形成のためには,まずある程度の出現率が見込める反応カテゴリーの基準を設け,そこに含まれる行動が自発した場合のみ強化されるいわゆる分化強化discriminant reinforcementの手続きが必要となる。

 このほか,確立操作establishing operation,つまり,強化する状況で用いる好子の強化価(効力)がより高くなるような事前準備も必要である。飽和状態にあれば,強化の効果は十分発揮されないからである。

【弱化および消去による行動変容】 ある状況での適応的な行動の頻度を高めるためには,できれば同時進行で,その状況での不適応な行動の頻度を低める介入が行なわれることが望ましい。両立しえない行動incompatible behaviorの生起確率を高めることは,その行動と等価な機能をもつ行動functionally equal behaviorの生起頻度を低めることにつながる。弱化punishment(罰とも)のうち,嫌悪性のある刺激(嫌子negative reinforcer)を行動生起の直後に伴わせる弱化,つまり「嫌子出現の弱化」は臨床心理学的介入として選択されることはほとんどない。感情的な反発を招く,永続的な行動変容が期待しにくい,攻撃そのものを習得させる危険がある,などの望ましくない副作用があるためである。「好子消失の弱化」は,生起確率を低めることが望まれる行動に,快をもたらす刺激の提示の停止を随伴させることでその生起確率や強度を低める介入である。クライエントとの事前の合意,消失に関する基準の明確化などが必要となる。

 定期的に安定して与えられていた報酬が望ましくない行動の出現に随伴して停止されるレスポンスコストresponse costや参加や執行の権利として認められていたものが望ましくない行動の出現に随伴して短期間制限されるタイムアウトtime-outは,いずれも問題行動が生起した際に,それまで快をもたらす刺激として提供されていたものを撤去ないし停止することで,直前の行動の生起頻度や強度を低減させる介入である。

 それまで問題行動に随伴していた強化を特定し,可能な範囲で停止することで,行動の生起を徐々に低下させていくのが消去extinctionである。消去による介入は,周囲の配慮だけで進めることができる点で,実践上の便利さがある。しかし,消去手続きが導入された後しばらくの間,それ以前と比べてかなり高頻度で高強度の,つまり非常にしつこい反応が生起する時期が不可避である。この現象のことを,バーストburstとよぶ。

【エクスポージャーによる行動変容】 エクスポージャー(曝露)exposureとは,衝動を喚起させる刺激にクライエントをさらす手続きのことである。比較的程度の弱い刺激から段階的に進め1回当たりの持続時間も短い(数十秒から数分)場合,段階的エクスポージャーgraded/graduated exposureとよばれる。

 比較的強い回避衝動をもたらす刺激から始め,1回当たりの持続時間も長い(数十分)場合は,持続的・集中的エクスポージャーprolonged/intensive exposureとよばれる。後者はフラッディングfloodingとよばれることもある。段階的エクスポージャーの場合では,喚起される衝動を中和化するような刺激や手続き(リラクセーション,気をそらしやすくする手がかりなど)を導入することがある。持続的・集中的な方法ではそれらは併用されないのが普通である。

 恐怖症の効果的な改善法としてウォルピWolpe,J.により開発された系統的脱感作法systematic desensitizationでは,不安階層表fear hierarchyにリストされた刺激や状況を,不安の度合いが低い項目からスモールステップで短時間の間にイメージすることをクライエントに求める。クライエントは,それによって引き起こされた恐怖反応をリラクセーションなどで拮抗させ減弱させていく。一般に,現実刺激を用いてさらす(現実エクスポージャーexposure in vivo)方が,改善効果は得られやすい。しかし,衝動を喚起する対象によってはイメージ・エクスポージャー(exposure in vitro,exposure in imagery)とせざるを得ない場合もある。

 強迫性障害の強迫行為に認められるような,能動的回避のメカニズムによる不安障害の場合,段階的エクスポージャーが奏功しにくいとされる。そこで,たとえば強迫観念が誘発される状況を意図的に作り出してクライエントをそこにさらし,その状況で強迫観念が浮かんでも,それを普段のように儀式行為で打ち消すことを抑制したまま,恐怖,不快さ,嫌悪感が低減してくるのを数十分かけて待つという介入が,この障害で最も勧められる手続きである。このような介入は,曝露儀式妨害法exposure and ritual prevention,または曝露反応妨害法exposure and response preventionとよばれる。

 なお,依存的な問題行動に対しても,刺激で喚起される接近行動の衝動に対するセルフコントロールを獲得するために,誘惑刺激に意図的にさらしつづけるという介入が取られる場合もある。これは,手がかりエクスポージャーcue exposureとよばれる。

【観察学習とロールプレイによる行動変容】 人のもつ卓越した,模倣modeling(観察学習,代理学習)による行動変容の能力を生かした技法である。

 社会的スキル訓練social skills training(SST)は,他者とのより有効な交流に要求される行動の獲得をねらいとした訓練法である。一般には,①より適切な社会的スキルが必要となる状況の特性とそこで生じている困難について情報を集め,②新たに形成すべき具体的なスキルを考案しモデルとして提示し,③模擬的状況でクライエントにロールプレイの遂行を求め強化ないしフィードバックによる修正を反復し,④実際の生活の中で実践的な行動変容へと浸透する般化generalizationを促し効果を確認する,という過程から構成される。

 なお,自己の希望や当然の権利を伝える,不当な要求や権利の侵害に拒否ないし抗議する,自身の素直な感情や意見を表現するといった,相手に対する攻撃にならない範囲で自己をアピールするためのスキルの獲得をめざす場合を自己主張訓練assertive trainingとよぶこともあるが,介入の手続きは同一である。

【認知再体制化による行動変容】 環境からの情報入力(本人個人の内部に生じた変化,たとえば「身体の一部に異変を知覚した」等も含め)に対して,一定の情報処理を施す過程が認知である。この過程には,「選択的な注意」,「解釈(原因帰属・推論)」,「認知的評価」といった処理が含まれる。そして,それぞれの処理段階において,さまざまなバイアスが働く。

 認知療法では自動思考や歪んだ認知distorted thinkingとして,論理情動行動療法では非合理な信念として表現される認知反応を,クライエントの理解と協力により特定することがこれらの変容を進めるうえでの前提となる。そのため,クライエントはあらかじめ認知をとらえるための枠組みについて理解できていることが望ましい(変容の進め方についての心理教育)。さらに,ある種の面接技法(クライエントの発見を促す面接法であるソクラテス式対話Socratic questioning,ある思考を選択することによる損と得を比較する利益と不利益の分析cost-benefit analysis,判断の根拠を探す証拠探しevidence examiningなど)を導入し,さまざまな自己モニターのためのツール日常のエピソードから受けとめ方やそれと対応する感情をふり返り記入する非機能思考記録表disfunctional thought recordsなどを用いること,などが特徴である。認知の歪みあるいは合理的でない信念などと表現される内容は,表のとおりである

 認知行動療法における望ましいセラピー関係を表現したことばに,協働実証主義collaborative empiricismがある。セラピストが上位の立場に立ってクライエントの認知の正誤を評価し一定の方向への変化を一方的に指示するのではなく,出来事とその受け止めおよび選択する反応の妥当さを共同作業として進め,ともに現実から学ぶような関係のあり方である。これはとくに,クライエントの理解と協力が必要となる認知再構成法を進めるうえでより重要となる。

【その他の補助的変容技術】 認知行動療法は,もともと訓練的,心理リハビリテーション的側面が強い。その中で,リラクセーション法を補助的技法として取り入れることも多い。代表的なものは,ジェイコブソンJacobson,E.によるリラクセーション法である漸進的筋弛緩訓練progressive muscle relaxation,自律神経系支配を受ける生理学的変化(血圧,脈拍,皮膚電気抵抗)あるいは筋電図や脳波を本人がモニターを視聴しながらコントロール能力を高めるバイオフィードバックbiofeedback,シュルツSchultz,J.H.により創始された自己睡眠法の一種である自律訓練法autogenic trainingなどである。

 マインドフルネス介入mindfulness interventionは,適応的でない思考の内容の変更だけでなく,その思考が及ぼす機能の面に焦点を当てる技術である。いわゆる「対象と距離をおく」対処,「克服するよりも受け入れていく」対処,「さりげなく注意を向けながら判断を急がず程よい覚醒状態を維持する」心理的態度などが重視されている。マインドフルネス介入がめざす方向性は,従来,たとえば受動的注意集中passive concentrationを重視してきた自律訓練法,あるいは座禅や瞑想など東洋的療法と相通じるものである。

 ヘイズらによるアクセプタンス・コミットメント療法acceptance commitment therapy(ACT)は,認知行動療法の新しい展開として注目されている。その枠組みの基本は関係フレーム理論relational frame theoryである。人が言語をもち,さまざまな文脈におけるさまざまな現象にラベリングを進め,それらを複雑に関連づけていく中で,必ずしも実態と同一とはいえない仮想現実的な意味内容を作り上げてしまうこと,その結果生成された機能によりクライエントやその周囲の人の行動が規定されていく過程をとらえたものである。アクセプタンス・コミットメント療法は行動分析学に基づいた理論構築で,新しい認知を積極的にターゲットにしつつ,認知療法や論理情動行動療法とも異なる認知行動療法的アプローチである。

 このほか,クライエントに向けてまとめられたテキストをベースにした読書療法vibrio therapy,情報ネットワークを使った遠隔地にいて支援する方法,さまざまな疾患や症状,問題行動ごとの,数名から十数名を対象にすすめる集団認知行動療法group cognitive behavior therapyへの試みなど,より多くの対象に向けた支援,効率化のための工夫が幅広く展開されているのも認知行動療法の特徴である。 →行動医学 →行動分析学 →心理療法
〔神村 栄一〕

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デジタル大辞泉「認知行動療法」の解説

にんちこうどう‐りょうほう〔ニンチカウドウレウハフ〕【認知行動療法】

情緒障害気分障害などに対する治療技法の一。物事を解釈したり理解する仕方を修正する認知療法と、学習理論に基づいて行動を修正する行動療法を統合した療法。他の心理療法よりも比較的短期間で治療効果が認められるとされ、パニック障害強迫性障害摂食障害不安障害などに効果があるとされる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)「認知行動療法」の解説

認知行動療法
にんちこうどうりょうほう

認知療法とほぼ同義語で使われ、問題解決を妨げている認知、つまり心の情報処理過程に焦点をあてることで、気分や行動をコントロールする力を育て、問題に適切に対処できるように支援する問題解決志向型の精神療法である。認知行動療法には、1回の面接が45分から50分間の定型的認知行動療法(高強度認知行動療法ともよぶ)のほかに、集団認知行動療法やインターネットを活用して15分から30分の短時間で行う簡易型(低強度)認知行動療法がある。

 定型的認知行動療法は、日本では2010年(平成22)4月にうつ病の治療法として診療報酬の対象になり、その後、不安症、強迫症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、神経性過食症の治療法としても診療報酬の対象となっている。このほか、慢性痛や耳鳴り、めまいなどをはじめとする身体疾患に伴う精神的苦痛を緩和する目的でも行われるようになっている。

 また、認知行動療法の考え方に基づくアプローチは、日常生活でのストレスへの対処や心の健康保持増進のためにも活用されている。こうしたアプローチは、医学的な治療法である認知行動療法と区別して、認知行動変容アプローチとよばれることもある。

 認知行動療法では、気持ちが動揺したときに頭に浮かんでいる考えに焦点をあてる。こうした考えは、ほとんど意識しないまま自動的に頭に浮かび消えていくことから、自動思考とよばれる。認知行動療法では、抑うつ感情(落ち込みや悲しみなど)の背景には喪失、不安感情には危険、怒り感情には不当な扱いを受けているという判断が存在しており、そうした思考が極端になってくると適切な行動がとれなくなって、心理的な苦痛を感じるようになると想定する。そのため、認知行動療法の面接では、情報を集めて現実的な思考ができるように手助けして、適切に問題に対処できる力を伸ばしていく。

 治療としての認知行動療法は、まず「概念化」ないしは「定式化」とよばれる作業から始める。それは、患者の性格や気質、生い立ち、子どものころから続いている考え方の特徴(スキーマ)、発症のきっかけや症状の継続に影響している要因など、患者の心理的課題や強みやレジリエンスを明らかにする作業で、こうした理解を患者と共有したうえで治療面接が進められる。

 治療の過程で使われる代表的な技法としては認知再構成法がある。これは、気持ちが動揺したときの自動思考を具体的に特定し、その思考に関連した情報を収集していく。それによって、患者は問題解決の助けになるような現実的な思考が可能になり、ストレスが軽減し、症状が改善してくる。

 このほかにも、日常の生活のなかで楽しいことや、やりがいのあることを増やしていく「行動活性化」、具体的な問題を解決するスキルを伸ばしていく「問題解決技法」、自分の気持ちや考えを適切な形で相手に伝える「アサーションassertion」、不安を感じる場面に足を踏み入れて危険の程度や自分の対処能力、周囲からの支援を確認しながら考えを修正し不安を軽減していく「暴露反応妨害法」など、さまざまな技法があり、こうした技法を駆使して治療を進めていく。

[大野 裕 2022年3月23日]

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百科事典マイペディア「認知行動療法」の解説

認知行動療法【にんちこうどうりょうほう】

行動療法

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