改訂新版 世界大百科事典 「口取」の意味・わかりやすい解説
口取 (くちとり)
口取ざかな(肴),口取菓子の略。口取ざかなは饗膳の最初に座つき吸物とともに出された酒のさかなで,〈土器を三宝に,口とりは熨斗(のし),昆布〉と近松の浄瑠璃《心中万年草(しんじゆうまんねんそう)》に見えるごとく,かちぐり,のしアワビ,コンブといった祝儀のさかなに始まったものらしい。やがて饗膳が儀礼的なものから楽しみ味わうものへと変化し,会席料理などが出現するに及んで,食味主体に趣向をこらした料理が用いられるようになった。《守貞漫稿》は,会席茶屋では最初にみそ吸物,つぎに口取ざかなが出され,その〈口取皿も三種にて,織部焼などの皿に盛り〉としている。その後は,かまぼこ,きんとん,伊達巻(だてまき),寄せ物などを用いるようになり,折詰にしてみやげにする風を生じた。口取菓子は,《寛天見聞記》に〈茶の口取は船橋屋織江(ふなばしやおりえ)がよし抔(など)皆おごりといふべし〉などと見え,茶席で客が座についたときに出される菓子とするのが通説になっている。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報