口明け (くちあけ)
共同利用している山野や漁場,磯浜に採取を目的に入ることを解禁すること。口明けは元来もののはじまりを意味する言葉であり,入会山への入山の解禁を山の口明けとか山の口と呼び,磯浜や漁場への解禁を浜の口明けとか磯の口明けということが多い。山の口明けは自由に入ってよい最初の日のことであるが,ムラが利用している山すべてについていっせいに口明けにする所と,採取物ごとに口明けの時期を決める所があり,また解禁してからの一定期間を口明けと呼び,その間入山については持参できる道具や搬出方法に一定の制限を加える所も各地にある。磯浜での海草や貝類の採取についても,採取に出る人数を1戸1人に制限したりする例は多い。このような口明けの制度化は,大量の採取を阻止して,対象物を保護しようとする目的とともに,人々の間の形式的平等を保とうとする目的があるといえる。いずれも,商品流通の発展とともに採取物に商品価値が出てきたことが深く関係していると考えられる。
→磯の口明け
執筆者:福田 アジオ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
口明け
くちあけ
共有山や地先漁場など入会地(いりあいち)での採取をめぐる村落の社会慣行の一つで、一定の条件下で採取が解禁になること。「山の口明け」「ワカメの口明け」などといわれ、この対象物には日常生活や生産活動に必要なもの、交換・商品価値が高いものがなっている。たとえば、燃料や肥料に使われる山や林野の落ち葉・枯れ枝、肥料や飼料になる草、磯浜(いそはま)のアワビ・サザエ・ワカメ・コンブ・テングサなどで、このほかキノコ、百合根(ゆりね)、ツバキの実なども対象物とする所がある。この慣行は天然資源の保護や採取機会の公平を目的としており、採取対象物ごとに採取開始の日時、期間、さらに採取用具や採取人などの条件が村落社会で定められている。口明けの日時を決めるのは通例、村落社会の役員で、天候や成育状況によって決めたり、毎年一定の日を口明けとしたりしている。口明け後は自由に採取してよい場合、1日だけ解禁し、また別の日に口明けを設ける場合、特定の期日で定期的に解禁する場合などがあり、法螺貝(ほらがい)や旗などの合図で村人が一斉に採取を開始するようになっている。採取条件には、1戸から1人、動力船は使えないなどさまざまなことがあり、口明けの期日や諸条件を守らないと制裁が加えられることもある。
[小川直之]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
世界大百科事典(旧版)内の口明けの言及
【磯の口明け】より
…藻場のス,わかめのス,のりのス,天草のスなどというが,これらは古くからあった習慣ではない。口明けは磯根資源の販路が開けその価値がより高くなるにつれ,磯根資源の保護の必要上から定着した制度である。従前においては3月3日の節供は仕事を休んで磯へ下りるなどというように,磯根資源の生育期に当たる年中行事などを一般的に目安にする程度であったが,現在では通常,漁獲対象となる磯根資源のひとつひとつに応じて口明けの日が決められている。…
【山】より
…山の耕地化が進み,18世紀後半以後には桑畑の拡大欲などによる矛盾が紛争を生むこともあったが,紛争例が多く記録される反面,相接して山野を利用する多くの村の住民が,そこで相互交流の機会をもったことも見のがせない。山の口明けは,しばしば村民共同の一種の遊楽としての印象を伝えている。山は肥料,餌料,燃料や諸道具を生み出すほか,木の実や皮,草の根,キノコ類,渓流魚や鳥獣などを含めて,食料の供給地でもあり,飢饉のおりは,とくにその意味が大きかった。…
※「口明け」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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